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超三結アンプの製作(TU-894の改造)

改造その1
改造その2

製作にあたってお世話になった作りアンプの会の方々

 最近、何気なくインターネットのアンプ情報を眺めていたら、6BM8と超三結アンプの記事が目に付きました。その気になって情報を集めてみると、たくさんのサイトが超三結アンプに関する情報を提供しており、音も良さそうです。
 ちょうど、手元には6BM8を使ったエレキットのTU-894が眠っていましたので、改造してみることにしました。



改造その1
(部品)
 写真で分かるように、とても小さなアンプですから、改造するときには大きな部品を追加することは無理です。 このため、 源’sホームさんの製作記事、 宇多さんの製作記事 などを参考に、初段をFETシングル増幅とするに しました。 FETは、2SK30Aを考えていたのですが、宇多さんの超三結アンプ解説ページに、動作電圧範囲が比較的広いFETとして2SK68Aが載っています。 手元には、中古品の2SK68Aがたくさんありますので、これを使うことにしました。 しかし、高橋秀夫さんの製作記事によると、2SK68Aだと安定しにくく、2SK30Aの方が安定に動作するとあります。 理由はよく分かりませんが、2SK30Aと2K68Aで動作が極端に違うとは考えにくいので、とりあえず2SK68Aで作ってみることにしました。
 2SK68Aのソースに入れるトリマ抵抗ですが、真空管アンプには慣れておらず動作点を掴みきれないので大きめの値とし、多回転型のものを使用して調整範囲を広くしておきます。動作点がはっきりしている場合は、固定抵抗と小さな値の半固定抵抗の組合わせで十分でしょう。

 ケース、トランス、電源のケミコン類は、TU-894のものをそのまま使います。改造後の回路図を以下に示します。 図中の電圧は測定値ですが、B電源の電圧が一定の条件で測定しているとは限らないので参考程度と考えて下さい。

 初段の2SK68Aの入力側には、寄生発振防止と、高周波入力で不安定になるのを防ぐため1kΩの抵抗と100pFのスチロールコンデンサを入れます。 バイアス抵抗は、ボリューム抵抗だけでもいいのですが (TU-894オリジナルはこうなっている) 、ボリューム抵抗が接触不良を起こしたときに不安定になるのを防ぐため、100kΩの抵抗を入れます。 三極管部のカソードと、五極管部のコントロールグリッド間には、680Ωの抵抗で接続します。この抵抗は、オリジナルアンプのカソード抵抗だったものを流用しました。

 ストッピングダイオードですが、 タムさんのページ用語定義集によると、この言葉は造語のようであり、 タムさん、宇多さんなどがその効果を検討しているようです。 いずれにしても、その効果はNO-NFBアンプの特徴に通じるものがあるようなので、入れることにしました。
 ここで問題になるのは、ダイオードに何を使うかということです。 他の人の例では、通常の整流用ダイオードを使用していることが多いようです。 電圧が高い環境ですからショットキーダイオードは除外 (そんなに高い逆電圧が掛かるようでもないので使えそうな気はするが・・・・・) すると、 一般の整流用ダイオード、ファストリカバリーダイオード (逆回復時間で色々種類があるらしい) が考えられます。 タムさんは実験の中で、整流用のダイオードで十分効果があるように書いていますが、製作記事ではファストリカバリーダイオードを使っているようです。

 半導体アンプの電源に使用する場合は、一般品よりもファストリカバリーダイオードやショットキーダイオードを使用した方が音質が向上するということはよく知られています。 ストッピングダイオードも、せっかく音質向上の目指すのであれば逆回復時間の短いダイオードを使うべきであるといういことは言えるだろうと思います。 特にストッピングダイオードの場合はアンプ部から隔離されている電源部ではなく、アンプの回路に直接用いるのですから、このような場所に逆回復時間の長い一般品を使用するのは抵抗を感じます。

 以上のことから、ストッピングダイオードには、ファストリカバリーダイオードを使うことにしました。 そこで、千石電商で探してみたところ、電流が大きすぎるものの逆回復時間が35nsの日本インター 31DF6がありましたので、これを使うことにしました。

 出力トランスは見た目にも小さいもので、電流を多く流すことは不可能のようです。TU-894の組み立てマニュアルから計算してみると、トランスの直流電流は25mA程度です。スクリーングリッドには5mA程度流れると思われるので、五極管部のカソード部分の電流を30mA(カソード電圧を45V)に調整することにします。



(製作)
 改造は、基板のパターンを加工したり、ドリルで孔を開けたりして行います。 基板の表面に付けることができれば、見映えがいいし、回路の調整も簡単になります。 カットすることでパターンが作ることができればいいのですが、配置の関係で基板の表面に取付けが難しいものは、裏面に取り付けます。
 写真で分かるように、入力部分のFET、抵抗、コンデンサ、トリマは、表面に取り付けました。 ストッピングダイオードと、1.5kΩ2Wの片側は裏面になりました。

 なお、プリント基板の写真については、エレキット様のご確認を得て掲載しています。また、当然のことですが、以下の点に注意して下さい。
・改造はメーカー保証の対象になりません。もし、改造される場合は、自己責任でお願い致します。
・TU-894は既に生産完了品ですから、入手不可能です。出力トランスが大型になり、特性も改善されているTU-870だと入手できます。







(結果)
 配線が終わったら、コーヒーを飲んで一休みし、配線の再チェックをします。 問題がないようであれば、電源スイッチを入れ、スライドトランスで徐々に電圧を上げていき、五極管部のカソード電圧を監視しながらトリマを調整して約45Vになるように動作点を設定します。 その後、オシロで各部の波形を観察します。 発振などの問題はありませんでした。

 改造による音の変化を確認するため、改造前に Accuphase E-301と比較しておきました。 音楽は人の声に注目して、杉田二郎 「super best 2000」(FHCF9613)、森田童子「マザー・スカイ」(WPCL-746)を選びました。 TU-894オリジナルでは、音がセンターに寄り気味であり、低音と高音が出ません。 しかしながら、音の出方というか音の傾向はE-301と似たようなものでした。

 改造後は、NO-NFBアンプの音に近くなり、音の出方が激変します。 低音も高音も出るようになり、音が前に出てくるし、音に広がりがでます。 真空管アンプのことはよく分かりませんが、超三結だと小さなトランスでも低音が出るようになるというのは本当でした(超低域までは分かりません)。 TU-984オリジナルのときは、E-301の負けていたものが逆転してしまいました。 小さなトランスから出ている音とは思えないものがあります。 

 但し、大きな問題がありました。ハム音が大きくて、音の出ていないときは非常に気になります。 オシロスコープで見ると、20mV p-pの出力があります。 電源のコンデンサの容量が小さいために、B電源のリップルが2V p-pあり、これが出力に出てきています。
 もう一つの大きな問題は、100V電源の電圧変動で動作点が大きく変化してしまうことです。五極管部のカソード電圧を見ていると、部屋のエアコンがON-OFFするたびに5V位動きます。
 これらの対策には、B電源の定電圧化しかないと思われましたので、改造その2を行うことにしました。

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改造その2
(部品)
 改造(2回目)した回路図を以下に示します。 電圧は測定値ですが、安定化電源を入れたため、おおよそ正確な測定値を得ることができました。 定電圧電源ですが、トランジスタを使おうと思って秋月電子に行ってみたら高耐圧のトランジスタが見つからず、高耐圧のMOS-FETが見つかりました。 トランジスタよりも出力抵抗が大きいような気がしますが、ドライブ電流が不要で回路構成を簡単にできるので、2SK2186を使うことにしました。 ゲートには、1kΩの抵抗を入れ、動作の安定化を図ります。 また、発熱は2W程度ですので、適当な放熱器を付けて使用します。 但し、ケース内の狭い所に収める必要がありますので、大きさには注意する必要があります。 適当なものがなかなか見つからずあちこち探しましたが、鈴商の奥に適当なものがあったので、それにしました。

 基準となる電圧は、RD-62Fを4本直列にして作ります。 データシートを調べると100nA~数mAの範囲で定電圧特性を示すようなので、33kΩの抵抗を使用し、動作電流は1mA程度とします。これに22μFのケミコンをパラに入れて、ノイズの低減を図りました。 33kΩの抵抗とパラに入れている10D9は、源源スイッチをOFFにしたとき22μFのコンデンサの放電が間に合わなくなり、2SK2186が破壊されるのを防ぐためのものです。但し、必ず必要というものではないはずです。

 2SK2186の出力側のケミコンですが、定電圧電源であれば47μF 2個で十分と思われましたので、オリジナルのものを流用しました。
 あと、電源スイッチを入れてから真空管が暖まるまでの間や、真空管を挿さないで電源を入れたなどの場合に、定電圧電源が不安定になるのを防ぐため、出力側に100kΩの抵抗を入れてあります。

 半導体アンプの定電圧電源だと、アンプを調整している時にショートしたり、スピーカー出力をショートしたりした場合に備えて、保護回路を入れます。しかし、今回のような電源だと電源トランスの抵抗が大きいし、流れる電流もせいぜい80mA程度だし、スピーカー出力をショートしても大きな問題が起こる可能性が低いしと言う訳で、保護回路は省略しました。

 この改造で、B電源の電圧が240V程度に下がりますので、スクリーングリッドに供給する電圧は、B電源から供給します。 また、五極管部のカソードの抵抗も、1.35kΩ(2.7kΩ×2)に変更します。
 ついでですから、五極管部のカソードと定電圧電源の出力側のケミコンにはフィルムコンデンサをパラに入れて、音質向上を図ります。




(製作)
 放熱器はタップでネジ穴を付け、基板にネジ止めします。もちろん、基板はパターンをカットしたり、孔あけをしておく必要があります。 これに2SK2186を付けますが、シリコングリスを塗ってしっかりネジ止めし、熱抵抗を低減します。
 基板の裏を見て分かるように、あちこちつぎはぎだらけになってしまいました。 これだったら、最初からプリント基板を作った方が綺麗だし、回路定数も もう少し適切な値を選べただろうと思います。



(プリント基板の写真の掲載は、エレキット様の確認を得ています。)

 2SK68Aを使用し、2SK2186の定電圧電源を入れたことで、ケース内の熱を十分逃がす必要があります。 さもないと、FETが熱破壊を起こしたり、寿命が極端に短くなってしまいます。 この対策ため、真空管の足元に空気穴を開けました。 また、裏板に穴を開け、放熱器の周辺を空気が通るようにしました。





 配線を終えたアンプの裏側です。 それらしく、納まりました。



(結果)
 B電源のリップルはほぼゼロになり、スピーカーにつないでもハムは聞こえません。 240Vというような高電圧の定電圧電源は初めて作ったのですが、問題なく動作しているようです。

 efuさんのWavegeneを使ってKorg U1から取り出した信号をアンプに入れ、特性を調べてみました。クリッピングポイントは1.4W(1kHz)、 0.1Wと1W出力における周波数特性は以下のようになりました。高音側の-3dBポイントは15kHzあたりと思われます。




 歪率特性を測定してみました。 Wavegeneの信号をアンプに入れ、アンプ出力をKorg U1のアナログ入力に戻し、同じくefuさんのWaveSpectraを使って測定しました。  他の方の例と同じような結果になっているようです。



 音ですが、定電圧電源を入れたせいか、低音が豊になったような気がします。 半導体のNO-NFBアンプだと、定電圧電源を使用すると低音が締まった感じになり、低音の膨らみが減少するように感じるのですが、真空管アンプの場合は違うのかもしれません。 また、ハムが聞こえなくなったので、細かい音まで再生できるようになりました。 改造その1のときも述べましたが、音が前に出てくるし、スケール感もあり、音楽を聴くのが楽しくなるアンプです。

 真空管のアンプ、特に小型の真空管を使ったアンプでは、半導体のNO-NFBアンプと同等の音を得ることは難しいと思っていました。しかし、超三結アンプとストッピングダイオードを組合わせると、同等以上の音を出せる可能性がありそうです。
 壊れているNO-NFBアンプを早く修理して、比較してみたいと思います。

製作にあたってお世話になった作りアンプの会の方々
 超三結アンプを製作するにあたっては、手作りアンプの会の方々の情報が非常に参考になりました。このページで引用させて頂いた方々も、源’ズホームさん以外は、手作りアンプの会のメンバーです。 また、このページに引用させて頂くためにメールでやりとりをしましたが、丁寧で適切な助言を頂くことができました。 会は、「自由に発表のできる場所、意見交換ができる場所の提供を心がけている」ということですので、真空管アンプを製作しようと思っている方は、一度アクセスしてみたらいかがでしょうか。

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