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NO-NFBアンプの製作について2002.10.14
(2005.3.4、2006.9.8、2011.7.14、2012.10.4一部変更)

1. ここで言うNO-NFBアンプ(無帰還アンプ)とは(2011.7.14追加)
2. NO-NFBアンプが少ない理由
 2.1 出力電圧が取れない。
 2.2 ドリフトが避けられない。
3. それでもNO-NFBアンプを作る理由
4. NO-NFBアンプを作る時の要点(2005.3.4変更)
5. NO-NFBアンプの音

1.ここで言うNO-NFBアンプ(NON-NFBアンプ,無帰還アンプ)とは
 ここのWebSiteで述べるNO-NFBアンプ(NON-NFBアンプ,無帰還アンプ)は、一般的な定義のNO-NFBアンプです。つまり、

・出力信号を抵抗、コンデンサ、外部配線などを用いて意図的に入力側に戻し、入力信号と合成する回路を持たないアンプ (2012.10.4追加)
 (ここで意図的にという表現を用いているのは、能動素子自身が持つ容量・抵抗による帰還を除くという意味です。)
具体的には
・局部帰還以外の負帰還を使っていないアンプ、
・能動素子、受動素子を含め、2段以上に渡る負帰還を使っていないアンプ(1段増巾でも、抵抗、コンデンサなどの外付け素子を介して出力信号を入力に戻す場合は、負帰還アンプになるので若干修正しました。)

などのことです。従って、終段NO-NFBアンプなどは、ここではNO-NFBアンプとは呼びません。逆に、 素子の特性として負帰還動作している或いは負帰還動作しているように見えるものは、NFBアンプ (負帰還アンプ)とは呼びません。IGBTのように微妙なものはありますが

(2011.7.14追加)
無帰還アンプという名前を批判する記事でよく目にするのが「電流帰還(局部帰還)はNFBだ」という表現です。だから、「電流帰還を使ったアンプは無帰還アンプではない」と言いたいようです。それはそれで厳密には正しい表現でしょうが、昔からオーバーオール無帰還アンプのことを「無帰還アンプ」と呼んできたわけで、オーバーオール無帰還アンプと言わなくても問題なく意味が通じます。
パイオニアのExclusive M3では、「全回路は局部的な電流帰還により、利得を最適に調整しNFBをかけない特性を改善しておき、NFBの量を必要最小限に留めています。」(http://audio-heritage.jp/PIONEER-EXCLUSIVE/amp/m3.html)という表現で、電流帰還をNFBとは呼んでいません。昔は、このような考えが普通でした。
また、NF型トーンコントロールアンプ、NF型イコライザーアンプ、NFB型イコライザーアンプというように、NFB或いはNFという表現がオーバーオールNFBの意味を持って使われていました。
このように、NF、NFB、無帰還、NO-NFB、non-NFBという表現は、昔からオーバーオールの意味を含んだ形で使われており、「オーバーオール無帰還」と言わないと意味が通じないということはないのです。もし、どうしても「オーバーオール無帰還」でなければならないというのであれば、NFBアンプのことも「オーバーオールNFBアンプ」と言わないといけなくなります。これを、人に押し付けても、誰も納得しないでしょう。

2.NO-NFBアンプが少ない理由
 真空管アンプでは、NO-NFBアンプは珍しくないのですが、トランジスターやFETのNO-NFBアンプは  あまり例がありません。この理由として、

トランジスター回路は、裸の歪み特性が良くないので、NFBが必要である (1975年頃はこのように思われてた。今でもこのように考える人がいるらしい)。  或いは、
NO-NFBアンプだと、歪み特性がよくないし、出力インピーダンスが高いし、 ドリフトを小さくできないのでNFBが必要である。
 ということはよく言われていますが、もう一つ大きな理由があります。それは、
NO-NFBだと出力電圧を大きくとれない。
つまり、NFBを使わないと、電源電圧の利用効率が悪く、出力電圧を大きく取れないのです。

 メーカーから見ると、NO-NFBアンプは、歪み特性は良くないし、電源電圧の利用効率は良くないし、 ドリフトは多いし、設計は面倒だし、作る気になれないアンプでしょう。仮に、作ったとしても歪み率が NFBアンプよりずっと大きくなるので、NO-NFBアンプを知っているオーディオマニアでもない限り買う人が いないでしょう。さらに、NFBによる動作の安定化を期待できませんので、経時変化が大きくなりがちにな ります。このため、長期間安定に動作させようとするとそのための費用が余計に必要になり、価格が高くな りがちです。このようなアンプを売りにくいのは当然と言うことになります。

 など、などで、半導体NO-NFBアンプは超マイナーな存在になっているのです。

2.1 出力電圧が取れない。

 どういうこと???

 例えば極端な例ですが、下図に示す2段増幅アンプで、裸の増幅率2倍のアンプを設計することを考えて  みます。 電源は絶対値がほぼ等しい±2電源で、無信号時の出力電圧はアース電位とほぼ等しいものと  します。選択肢は、下記の3つを考えてみます。
(1)初段で増幅しないで、2段目で2倍増幅する。
(2)初段で2倍増幅し、2段目で増幅しない。
(3)初段で1/5に縮小し、2段目で10倍増幅する。
 このうち(2)では、2段目のゲインが1ですから、R9とR10の値をほぼ同じにする必要があります。しかし、 出力電圧をほぼ0Vにする必要がありますから、R10の両端にはマイナス側の電源電圧が発生しなければなりま せん。こうなると、R9の両端にもプラス側電圧とほとんど同じ電圧が発生することになり、V2も0Vになって しまいます。当然、出力電圧の振幅がとれなくなり、出力電圧がゼロになってしまいます。もっとも、 これ以前に初段の動作点をうまく決めることができませんから、設計自体が困難です。
 (1)だと、R9がR10の半分の値になり、V2が電源電圧の半分くらいになります。この場合のプラス側の 最大振幅電圧は、V2とV3の電圧が同じくらいになるところですから、プラス側の電圧の1/3弱になる点です。 つまり、の電源電圧の1/3弱程度しか利用できません。
 (3)のケースが一番実用的で、R9がR10の1/10、R4+R5がR6の5倍弱ですから、設計も無理なくできます。V2とV3がほぼ同じになる電圧はプラス側電源の8割程度ですから、電圧利用率もまあまあです。

 このように、NO-NFBアンプではゲインのコントロールに局部帰還を利用するため、比較的大きな値の局部 帰還抵抗を使います。上記は無理に低ゲインのアンプを設計する極端な例ですが、実際にNO-NFBアンプを作 ろうと思うと、局部帰還によって電源電圧の利用効率が低くなることを考慮する必要があります。かといっ て、電源電圧の利用率を上げようとすると、増幅率が高くなってしまいます。歪みと電圧利用効率の関係 から、出力電圧が必要となる増幅段のゲインは、10~30倍程度が適当な所になるでしょう。

 これが、NFBアンプだと増幅率2倍のアンプは簡単でしかも電圧の利用効率も高くなります。NFBアンプと、NO-NFBアンプでは回路の設計方法がまるで違うということを理解してもらう必要があります。


2段増幅アンプの例

2.2 ドリフトが避けられない。
 ほとんどのアンプは、アンプの出力段とスピーカーが直結になっています。NFBアンプだと、NFBの効果でドリフトが抑えられ、ドリフトが出にくくなっ ています。さらに、メーカー製アンプでは、オペアンプをNFB回路に入れて直流付近の帰還量を増やし、ドリフトを抑えています。
 実例として、E-301の修理記録を見て頂ければ分かりますが、オペアンプを1段或いは2段入れてドリフトを抑えています。マニアが自作する場合だと、音に影響があると思われるのでここまでやらないと思うのだが・・・
 一方、NO-NFBアンプの場合はドリフトを抑えるために、Dual FETを使ったり、対象回路にしたり、Dualトランジスタを使って温度補償をしたり、素子の選別をして対称性を上げたりします。これにより通常使用する範囲では、数十mVのドリフトまで抑え込むことができます。
 しかし、非常に暑いところで使用するなどした場合は、ドリフトが大きくなり100mVを超えることがあります。このため、DCサーボを使用したり、コンデンサーでカップリングする方法を使うことになります。

 ここまで述べてきたように、NFBアンプだと簡単に済んでしまうことが、NO-NFBアンプだと設計が非常に難しくなることがあります。 結局、NO-NFBアンプだと歪み特性は良くないし、電源電圧の利用効率は良くないし、ドリフト は多いし、設計は面倒だし、あまり有り難くないアンプということになっているわけです。

3.それでもNO-NFBアンプを作る理由
 何も良いことのなさそうなNO-NFBアンプですが、それでも私が使っている理由はいくつかあります。

(1) 私の好みの音が出る。サ行の声が荒れず、奥行き感・立体感があり、細かい音まで聞こえます。これが最大の理由です。
(2) 動作が単純である。入ってきた信号を出力から出すだけです。
(3) アンプの調整が比較的簡単である。寄生発振 (或いは自己発振ともいう) しそうなところは予め対策を講じる必要がありますが、それ以外はテスター だけで調整しても動きます。NFBアンプのようにオシロスコープで矩形波の形を見ながら、位相補正コンデンサを付け替えるといった調整は不要です。もっと もアンプを自作する場合、オシロスコープは必需品だと思います。

4.NO-NFBアンプを作る時の要点(2002.10.14作成、2005.3.4変更)

(1) 電源電圧は高くする。
 電源電圧の利用効率が悪いので、かなり高めの電源電圧が必要になることが多い。
(2) 増幅素子の動作点付近での電流変化を少なくする。
 NO-NFBは歪みが大きくなりがちなので、歪みを抑えるためにも増幅素子の動作点付近での電流変化を少なくするように設計する。なるべく、直線領域に近い部分を利用する。
(3) ドリフトの少ない回路にする。(2005.3.4変更)
 直流的に正負対象動作するように設計するのが効果的。温度変化によって動作点が変化する部分は、温度補償などの対策を採るようにする。 パワーアンプの場合は、最後に、DCサーボで抑え込むようにする。
(4) アンプの回路は、電源の影響を受け難い回路を採用する。(2005.3.4変更)
 どうせ設計するのであれば、可能な限り、電源の影響を受け難い回路にしたほうが良い結果がでるようです。ドリフトを抑える意味でも、このような回路にす べきです。 電源の影響を受けやすい回路だと、電源もアンプの回路の一部と考えて設計する必要があります。さもないと、電源の影響で、せっかくのNO-NFBア ンプの音が死んでしまう可能性があります。
(5) 電源は定電圧電源にする。(2005.3.4変更)
 電圧増幅段の電源 は、動作を安定にするために定電圧電源をお勧めします。この場合、ツェナーダイオードのノイズを低減した無帰還タイプの定電圧電源を使いましょう。 パ ワーアンプの出力段の電源は、最近作ったアンプの経験からアースの配線さえきちんと処理すれば、必ずしも安定化する必要はないようです。
(以前は、パワーアンプの出力段を定電圧電源にしないと低音がぼやけると思っていたのですが、アース配線をきちんと処理すれば問題ないことが分かりました。)

5.NO-NFBアンプの音
 私が実験してみた結果では6dB程度のNFBでも、NO-NFBと比較すると音が大きく変わります。音がいいとか悪いとかを言い出すと、 「おまえの耳 が悪い」 とか 「高級なアンプの音を聞いたことがないやつが何をいうか」 とか 「電気のことを知らない素人の戯言だ」 とか 「おまえの製作技術が未 熟だ」 などと言われて、貧乏マニアとしては反論のしようがないので述べません。しかし、NFBアンプに比較すると、NO-NFBアンプにはいくつかの特 徴があります。

(1)奥行き感が出る。
 NFBアンプだと音源がスピーカーの位置にへばりつき、苦しそうに鳴っている感じになります。これに対し、NO-NFBアンプだと前後の広がりが出てきて、のびのび鳴るような感じになります。

(2)人の声のサ行が荒れなくなる。
 人の声の荒れが少なくなります。同様に、アナログレコードのスクラッチノイズが目立たなくなります。

(3)細かい音まで聞こえる。
 音の荒れた感じがなくなるため、NFBアンプからNO-NFBアンプに切り替えた直後は分解能が落ちたような印象になりますが、細かい音を比較して聞いてみると、NO-NFBアンプの方がよく聞き取れます。

 このほかに、クリッピングしている音量レベルでも、NFBアンプのような割れるような音になり難いとかの特徴があるようです。



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