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CDプレーヤーの製作

1.全体構成
2.製作
 (1) CD-ROMコントローラ(上野氏が設計し配布したキット)
 (2) CD-ROMドライブのデジタル出力処理回路
 (3) DAI
 (4) R=2Rラダー型DAC (2007.3.31抵抗選別の情報追加)
 (5) ローパスフィルタ
 (6) ケース
 (7) 電源
 (8) 調整
3.出てくる音

 手作りアンプの会の会員である上野氏が配布したCDコントローラキットを手に入れた のは、2004年4月でした。その頃は、デジタル機器を作るなんて自分には無理と思いながらも、なんとか作っ てみたいものだと考えていました。 キットを購入したのもデジタル機器を知るきっかけになればという 不純な動機が多分に含まれていたものです。 しかし、キットを手に入れてからもなかなか製作意欲が 湧かないまま時間が過ぎて行きました。
 9月になって、秋葉原にオーディオ用のケーブルを買いに行ったとき、たまたま店頭に500円で売ってい たAcerの中古品CD-ROMドライブ656Aが目につきました。可動品かどうか判断しかねてちょっと躊躇しま したが、買うことに決めました。
 家に帰ってまず、セラロックを上野氏から分けてもらった水晶発振器に交換してみました。続いて、 上野氏のCD-ROMコントローラの組み立てに取りかかり、これで弾みがついてCDプレーヤー一式を作り 上げることができました。

1.全体構成
 さて、CDプレーヤーに組み込むものは、以下の部品、ユニットにします。

a. CD-ROMドライブ、
b. CD-ROMコントローラ、LCD表示ユニット、タクトスイッチ4個
c. CD-ROMドライブのデジタル出力処理回路(CD-ROMドライブとDACのアースを分離し、かつ信号をTC9245と外部に送るためのユニッ ト)
d. DAI
e. DAC
f. ローパスフィルタ
g. 電源-CD-ROM・CDコントローラ用のスイッチングレギュレータ
  電源-DAI,DAC,ローパスフィルタ用の電源トランス、整流回路
  電源-パソコンの電源スイッチで装置全体の電源をコントロールする回路
h. アナログ出力端子、デジタル出力端子

 これだけの数あると、大きめのケースにする必要があるのと、CD-ROMドライブ・LCD表示ユニット・タクトスイッチが体裁良く納まる必要があるの で、なかな か適当なものがありません。 使えそうなものをしばらく探していたところ、3.5インチフロッピードライブベイがあるパソコン用ケースが目につきました。  これだと、ケースも大きめだし、LCD表示ユニットをフロッピードライブベイに取り付けることができそうです。



2.製作
(1) CD-ROMコントローラ(上野氏が設計し配布したキット)の組立
 上野氏が配布したキットは、ハンダ付けをした経験がある人だと簡単に組み立てることができます。 ですから、組み立てること自体は簡単なのですが、私の 場合はデジタル回路の部品に馴染みがなかったため、ピンヘッダ、ピンフレームなどという部品の使い方を初めて経験しました。
 この意味で、私にとってはデジタル回路を組む練習として非常に役立ちました。


ケーブルを接続したCD-ROMコントローラ

 CD-ROMドライブは、古い東芝のXM-5602を使いました。8倍速で遅いのですが、動作音が静かでCDプレーヤーにはぴったり です。yahooオークション(落札ミスして余計に手に入れてしまった)で2台、それに秋葉原の中古販売店で1台見つけま した。下の写真のように、セラロックの交換も容易です。セラロックの交換はこ こに 紹介例があります。 CDプレーヤーを作るきっかけになったAcer(最近はBenq)の656Aもセラロックの交換が容易で、動作音が静かなのでお勧め で す。

 
XM-5602のセラロック

両面テープで水晶発振器を取付け。メカとぶつからないことを確認して取り付ける。

(2)CD-ROMドライブのデジタル出力処理回路
  CD-ROMドライブはアースに大きな電流が流れており、しかも、パソコンドライブ用のコネクタを通して流れているの で接触が十分とは考えにくく、アース電位が安定し難いと考えられます。また、CD-ROMコントローラを接続している のですが、こちらはスイッチング電源の出力側から電源をとっているため、CD-ROMドライブのアース間に電位差が発生 してアース電流が流れているものと思われます。CD-ROMドライブの内部を見ても、ノイズ対策のために電源周りで フィルタが入っていたり、ケースにアースが接続されていたりして、外部機器との電位差が発生しやすいようです。

 このような状態のまま、DAI、DACのアースを共通にしてしまうと、オーディオ出力にCD-ROMドライブ周りのアース 電位のふらつきが現れて音質に悪影響を与えそうです。このため、DAI以降のアースと切り離すためにパルストランス を使うことにしました。

 CD-ROMドライブのデジタル出力は、DAIに送るだけでなく外部にも取り出せるようにしました。こうしておけば、 外付けのDACを使うことができます。また、コネクタを入れ換えると、出力端子を入力端子にしてDACとして使う こともできます。
 CD-ROMからの信号は、HCU04で受けています。出力はHCU04の内部インバータユニットを4個並列にした2.5V出力 (内部DAI用)と 3個並列にした0.5V出力(外部出力用)に分けて取り出します。パルストランスは、FT-50#77に 0.32φのポリウレタン銅線を9ターン:9ターン巻いたものを自作しました。 この状態で特に問題なく使用でき ています。 この基板の電源は、スイッチングレギュレータの12Vを三端子レギュレータで5Vにして使っていま す。


パルストランスを使ったデジタル出力回路


デジタル出力基板

 無信号時の出力波形を調べてみました。Korg U1の出力と、それをこの基板に入れたときの出力を比較してみま した。 自作のパルストランス出力に比較すると、Korg U1の波形が綺麗です。おそらく、Korg U1はパルストランスを 使っていないためと思われます。 しかし、パルストランスによるアースを絶縁する効果は 絶対に必要だし、実用上 支障が出ている状態ではないので、このまま使うことにします。

 
パルストランス出力波形

Korg U1同軸出力


(3)DAI
 DAIは、秋月などで安価に手に入るTC9245Nを使いました。TC9245Nに、外付けPLL用抵抗・コンデンサ、電源、入出力コ ネクタ、入力切替ジャンパだけの簡単な構成です。上 野さんのサイトを参考にして作成しました。上野さんの回路との違いは、同軸入力としたため75Ωの抵抗に直流 カット用の10μ+0.1μコンデンサを入れてIN0へ接続していることと、S1、S2を10kΩで5V電源に接続しジャンパーで 接地することで入力の切替をできるようにしていることです。 二つのジャンパーをショート(S1、S2の両方を接地) するとIN0からの入力になります。
 電源は、後述のようにトランスを使用したものにしています。


DAI回路


DAI回路基板

(4)R=2Rラダー型DAC
 これも、基本は上野さんのR=2Rラダー型ディスクリートDAC回路そのままです (回路図はここ)。 抵抗 は1.8kΩと3.6kΩとし、ゼロクロス用の調整部分は3.3kΩ+240Ω+(100Ω半固定抵抗と240Ωのパラ)にしていま す。 100Ω半固定抵抗と240Ωをパラにしたのは、抵抗の調整範囲を狭くして調整を容易にするためです。
 電源は、HC14とHC164用の5V、 HC574の右チャンネル用5V、 HC574の左チャンネル用5Vの3電源を使っています。また、 HC574の電源端子からアースに470Ωの抵抗を接続し、電流の変動を少なくしてみました。
 HC574用の電源も、18Vのトランスを2個1組、計4個を使った9Vのトランスから供給したかったのですが、トランスを納めるスペースがありませ ん。かといって、9Vのトランスを別に買ってくるのも面倒だし高いので(なにせ、18Vのトランスは安かったので大量に買ってしまいました)抵抗で電圧を 降下させて使うことにしました。
 またDACの定電圧電源は、ディスクリートで組んだアンプ用のものを使うことも考えました。しかし、高い周波数を含む信号を扱う回路なので、出力側のコ ンデンサ容量を小さくしたディスクリート電源だと高周波のインピーダンスが上昇し、HC574の動作が不安定になる可能性がありそうです。このため、出力 側のコンデンサ容量を大きくした三端子レギュレータとしています。


DAC電源部


DAC基板

抵抗の選別
 抵抗は歪み率を悪化させないために、なるべく精度を高くした方がいいと聞いていたので、1%級の抵抗を選別して 使うことにしました。0.1%級だと高くてとても買えません。 千石電商で売っている100本300円の1%抵抗を 3袋ずつ買い込んで選別しました。 最初は2袋買ったのですが、下の左側写真で分かるように1.8kΩの方はバラツキ が大きかったので1袋追加しました。
 測定はデジタルテスタ(METEX M-3270)を使いました。絶対値はあまりあてにならないと思いますが、測定中に測定値が 変動してしまうと何を測っているか分からなくなるので、まず安定性を確認してみました。1.8kΩの1本を適当に選んで、 約15分間隔で4回程度測定してみました。(実際は、他の抵抗を測定している途中にこの基準とした抵抗を測定しまし た。) このテスタの安定性は非常に良好のようで、4桁目の値が全く変化しません。 選別する目的には、十分使えます。

 1.8kΩは4桁の精度で直読できましたので問題なく選別できたのですが、3.6kΩを測定してみると3桁の表示になって しまいます。 これだと選別の精度が落ちてしまうので、最初に基準となる抵抗を1本選び、この抵抗と選別する抵抗を パラにする方法で選別しました。 このとき、表示が動かないものと、最後の桁が動くものも分けて選別してみると、 下の右側の写真のように大体同じ数の山に分けることができました。
 選別した後に、同じ山の抵抗を2本並列にして測定し、その値を2倍すれば0.1%以上の精度で抵抗値を求めることがで きます。ここでは1.8kΩと組合わせて使用しますので、2本並列にして測定した値が、同じ値の1.8kΩと組合わせて使用 します。
 基準とする抵抗の値によっては、選別した後の抵抗値が中途半端になる(と言っても1~2Ω程度の違いではありま すが)場合が考えられます。時間に余裕があって選別にこだわりたい人は、選別した抵抗の山から適当なものを選び直 して、再度選別してもよいかと思います。
 3.6kΩの選別はちょっと苦労しましたが、逆に、2個パラにして1.8kΩ付近で測定したことによりテスターの直線性誤差 の問題がなくなり、理想的なR=2R用の抵抗を選別することができたと思います。

  


(2007.3.31追加)
YOKOGAWA 7561型マルチメータで、選別した抵抗をチェックしてみました。絶対値は別として3.6kΩは±2Ωの範囲内に納まっていて、大部分 は±1Ωの範囲内でした。上記の選別方法でも、特に問題はなさそうです


1.8kΩの選別後

3.6kΩの選別後

ゼロクロス部分の抵抗値
 ゼロクロス部分の抵抗は、他の3.6kΩと同じ値になるものと信じ込んでいました。このため、選別した時に低めの値を 示した1.8kΩの抵抗を2本選び、他の3.6kΩよりも8~9Ω小さな値となるような組合わせを作り、これと直列に100Ω の半固定抵抗と27Ωの抵抗をパラにした調整用抵抗を入れました。  そして、パソコンで無音データを再生してKORG U1から同軸信号を入れ、ノイズが聞こえなくなるポイントに調整しよう としました。
 ところが、この組合わせだと半固定抵抗を最小値に振り切ってもDACのノイズが消えません。 負荷抵抗の影響が考えら れたので、入力抵抗10kΩのヘッドホンアンプを繋いだ場合と、入力抵抗10MΩのフィルターアンプを繋いだ場合を比較しま したが、差がありませんでした。 この現象は、左右のチャンネルとも同じ(最小ノイズ量もほぼ同じレベルでした) でしたので、抵抗の誤差とか、HC574の個体差ではないようです。
 抵抗値をもう少し小さくするしかないようなので、ゼロクロス調整用の抵抗を3.3kΩ+240Ω+(100Ωの半固定抵抗 と240Ωのパラ)に変更しました。その結果、ノイズが聞こえなくなるポイントに調整できました。

 ゼロクロス部分の抵抗は、他の3.6kΩよりも10Ω程度或いはそれ以上小さめの値になるようです。 またこの検討で、電流-電圧変換用の抵抗には入力 抵抗の異なるアンプを繋いでも動作点が変化し難いことも確認できました(極端な条件では分かりません)。

(5)ローパスフィルタ
 R=2Rラダー型DACの出力は20kHz以上の高周波成分を含んでいるものの、そのままでも問題なく音が出ます。 しかし、 20kHz以上の成分が多いため、2ウェイ、3ウェイのスピーカシステムだと、ツィータに負荷がかかる可能性があります。 このため、音質が劣化することなく高周波成分をカットできるフィルタが欲しいところです。
 そこで、次の方針でローパスフィルタを作ってみることにしました。

a. 余計な音が付加されやすいアクティブフィルタは使わない。
b. バッファは、音質の変化が少なく、接続も簡単なFET単段とする。
c. 44kHzで-10dB程度減衰させる。20kHzではなるべく減衰を少なくしたいが、-3dB程度の減衰は止む終えない。

 20kHz付近からある程度急峻に減衰させようとすると、通常のCRローパスフィルタだと6段程度重ねて時定数を調整 する必要があります。 しかし、あまり面白い回路とは言えないので、ノッチフィルタを使って20kHz付近の減衰特性 を確保し、100kHz以上は通常のCRフィルタで減衰させることを考えてみました。
 回路図を以下に示します。20kHz付近の肩特性以外は、ノッチフィルタとしての特性はあまり必要ないので、 意図的に定数をずらしてあります。また、ダンプ用の抵抗を入れて、急激な位相変化を抑えています。

 FETは、gmが高く出力インピーダンスを低くできる2SJ104/2SK364を使いました。 4mA流したときのゲート- ソース間電圧が近いものを選別して組合わせています。ノッチフィルタ部の抵抗とコンデンサは、左右でなるべく 同じ値のものを使用します。急峻な特性なので、ばらつきがあるとそのまま特性に現れてしまいます。
 周波数特性の実測値(少し下にずれているのが左ch)とSpiceでシミュレートした結果を示しますが、ほぼ一致してい ることが分かります。 実測値の方が少し減衰しているのは、入力側FETバッファの出力インピーダンスと、出力側FET バッファの帰還容量(40pFくらい)の影響があるためと思われます。

 フィルター回路の定電圧電源も、DACと同様にディスクリートで組んだアンプ用のものを使うことも考えました。しかし、やはり、高い周波数を含む信号を 扱う回路なので、出力側 のコンデンサ容量を大きくした三端子レギュレータとしています。

ローパスフィルタ回路


ローパスフィルタ基板


実測値


Spiceのシミュレート結果

 ローパスフィルターを入れることによる波形の変化ですが、1kHzのローパスフィルター前の出力が下図左側、ローパスフィルター後の出力が下図右側で す。1kHz程度だと、なめらかな曲線にすることができます。しかし、10kHzくらいになると角が目立つようになってきます。

 
ローパスフィルター前の波形(1kHz)

ローパスフィルター後の波形(1kHz)

(6)ケース
 ケースは色々詰め込むためと、CD-ROMドライブ・液晶表示器が体裁良く取り付け可能である点でATXパソコン用の ケースを加工して利用しています。  元々はベージュ色でしたが、オーディオ機器に似合わないので黒で塗装しました。


ケース外観

 ケース内部は色々詰め込んだのと、慣れないデジタル回路を余裕がありすぎる基板で作ったために窮屈になってしまいました。

内部の状態(フィルタ回路取付け前)

(7)電源
 電源スイッチがパソコン用であるため、ラッチリレーを使ってそれに対応した回路を作成しました。 スイッチの応答時間が短すぎると、ボタンの押し方に よってはスイッチON後にすぐOFFになってしまう可能性があるので、スイッチONの後、数秒はOFFの動作に入らないようにしました。逆に、スイッチ OFF後もすぐにはONの動作に入らないようにしています。

 
電源コントロール回路


電源コントロール基板

 CD-ROMドライブは5Vと12Vの2A程度の電流を必要としますので、シリーズレギュレータでは対応が難しくなります。 このため、スイッチングレギュレータを使用しました。 秋月で安価に売っていたCOSEL RMB30Aを使っています。 スイッチングレギュレータの後には、コモンモードとノーマルモードのフィルタ(下記写真)を入れて、ノイズの 低減を図っています。 この電源は、CDコントローラとパルストランスデジタル出力回路も動作させています。


スイッチングレギュレータの後のフィルタ

 パルストランスを出た後のDAI、DAC、ローパスフィルタは、トランスを使った電源としました。下の写真のよう に、10個の18Vトランスを使っています。このうち2個ずつ計4個は、1次側を直列にし、2次側をパラにして 9Vトランス2個として使っています。これをDAIとDAC入り口部分の電源としています。
 DACのHC574には、トランス2個で左右独立に電源を供給しています。 最後のローパスフィルタは、トランス4個で プラスマイナス左右独立電源としました。 


トランスと整流回路

(8)調整
  R=2Rラダー型ディスクリートDACにはグリッジノイズが存在するので、コンデンサを入れて低減した方がよいという コメントを手作りアンプの会の石田さんから頂いていました。 実際に、どんな具合か無音データを入れてみますと 写真一番上の状態です。感度は20mV/divです。
 そこで、出力の電圧変換抵抗3.6kΩとパラにコンデンサを入れてみました。 手元にあった温度補償型のセラミック コンデンサのうち470pFを入れてみたところ、中段のようになりました。もう一個追加して940pFにしてみると最下段の ようになりましたが、470pFとあまり大きな変化はないようです。
 しかし、940pFも入れてしまうとローパスフィルターとしてのカットオフ周波数が下がってきてしまい、音が変化してし まう可能性があります。このため、470pFのコンデンサを入れることにしました。


電流電圧変換抵抗のみ


470pFをパラに入れたとき


940pFをパラに入れたとき

3.出てくる音
 今までも三土会、お寺大会で上野さんのCDプレーヤーの音を聞いてきましたが、それよりも少しおとなしい感じがします。 次回の 三土会、お寺大会などで、比較試聴してみようかと思っています。

 手元にあるKORG U1のDACに較べると、音の伸び、音の広がりはかなり上です。


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