トーンコントロール付き無帰還ラインアンプの製作
1.設計方針
2.全体構成
3.各ユニット
4.組立
5.音
きっかけ
2010年夏手作りアンプの会お寺大会の課題は、内容積2L以下のスピーカーでした。このようなスピーカーをまともに作ってもパソコン用くらいにしか使い道がありません。そこで、スピーカーは既製品を改造する程度にして、トーンコントロール付きのラインアンプで低音の補強をしてみることにしました。
私が作るのですから、もちろんCR型(FETソースフォロアー付き)で、ラインアンプも無帰還です。
1.設計・製作方針
自作アンプマニアには、トーンコントロール回路を使ったアンプを作る人は少ないです。これは、音が劣化してしまうことが大きな利用だと思われます。かく言う私も、このアンプを作るまではトーンコントロール回路を使ったことがありませんでした。
しかし、パソコンで動画再生などをするようになると、音量はばらばら、音もひどいものが多くてトーンコントロール無しでは聞く気になれないものが氾濫しています。ちょうど、お寺大会の課題もマッチしていたので、パソコンの近くで使うことを目的にトーンコントロール回路付きのラインアンプを製作してみることにしました。
入力は、3系統の切り替えを可能とします。パソコンの近くで使うので小型であることが必要です。電源電圧は高い必要はないので、±18V程度とします。
2.全体構成
(1)トーンコントロール回路を入れる位置
CR型のトーンコントロール回路は、使用するボリュームにもよりますが、-15~-20dB減衰させた後にラインアンプで
30dB程度増幅します。ボリュームをCRトーンコントロール回路の前に入れるのが一般的な使い方です。
もし、CRトーンコントロール回路の後にボリュームを入れようとすると、トーンコントロール回路の後にバッファアンプかラインアンプを入れる必要があります。バッファアンプではノイズ的に不利になります。ラインアンプを入れる場合は、クリップを防ぐため
ゲインを小さくする必要があり、しかも、ボリュームの後に更にラインアンプが必要になり、複雑になり過ぎます。
しかしながら、真空管アンプならともかく、半導体アンプではバッファにFETコンプリメンタリーソースフォロアが使えるのでノイズの増加をあまり気にする必要がありません。また、このようにすれば、CR型トーンコントロール回路とラインアンプを切り離した使い方も可能となります。
そこで今回は、入力をCR型トーンコントロール回路に接続し、その後、バッファを介してボリュームに送る構成にしました。
- NFBを使ってもよいと割り切れば、CRコントロール回路の後にオペアンプを使えばこれも簡単に実現できます。でも、このような場合は、通常、NF型を使うでしょうね。
(2)入力アースの処理
入力は、機器間のアース電流が流れることで音に影響しないように、ホット、コールドの両方を切り替えます。しかしこのままだと入力を切り替えたときにノイズが出るので、入力のアースは本体のアースと24kΩの抵抗で接続し、選択されていないときでも電位が同じになるようにします。
3.各ユニット
(1)トーンコントロール回路と定数
CR型のトーンコントロール回路の定数決定法は、ネットとかオーディオ雑誌を探せば見つかりますが、意外とまとまった形で
説明している情報が少ないような気がします。トランジスタ2010年5月号のp78~79に、丹下さんの記事がありますが、
この記事が製作する場合に役立つと思います。
あと、半導体アンプとして使うには、抵抗の値が大きすぎるものが多いと思います。
真空管の時代であれば、100kΩ、低くても50kΩのボリュームを使っていたと思いますが、
半導体アンプを前提とすれば20kΩや10kΩでも全く問題ありません。コンデンサも、最近は小型、高性能のフィルムコンが
手に入りますので、基板の大きさをあまり変えることなく製作できます。ボリュームの値を小さくできれば、
音質的に有利になるし、誘導ノイズも抑えることができます。
今回は、10kΩのボリュームを使いました。ケースが小さいので、小型のものを使いました。マルツパーツ館で売っている
LinkmanのRD925Gです。一部のマニアの間で評価の高いものですが、トーンコントロール回路に使うのであれば、ボリュームによる音の違いはあまり気にしなくてもいいかもしれません。とにかく、安いのが魅力です。
CR型コントロール回路の減衰・増巾範囲は、A型ボリュームのセンター位置での減衰量に支配されます。というのも、調整するときには、センター位置でフラットになるようにするのが便利なので、トーンコントロール回路のコンデンサ、抵抗も、センター位置でフラットになるような定数にするからです。
無線と実験、1974年8月号の安井さんの記事には下図のような説明があって、図中の式に合わせるとボリュームのセンター位置で特性のうねりが抑えられると書いています。ぺるけさんのサイトにも同様の記述があります。(http://www2.famille.ne.jp/~teddy/pre/tc1.htm)
また、安井さんの記事に、図中のRは無いほうが特性のうねりが少なくなるとの記述もあります。
LinkmanのRD925Gは、センター位置で13%の抗抵値になります。このため、下図の回路のような定数にしました。コンデンサや抵抗の値をボリュームのセンター位置での割合である 13%に合っていませんが、これは、Spiceのシミュレーションでフラットになるように合わせた影響が残っている為です。
バッファアンプは、2SK364/2SJ104のコンプリメンタリーソースフォロアです。ソース抵抗が47Ωのときに、3.5mAの電流が
流れるものを選別して使用しました。トーンコントロール回路が出力に繋がっていて、一番重い状態では1kΩ程度の負荷になります。しかし、入力電圧は最大でも4Vp-p程度なので、十分耐えられると思います。また、入力側のソースフォロアの出力には直流カット用のコンデンサを入れていません。このため、直流電圧があるとそれがそのまま低音調整ボリュームに流れ込むので、ボリュームの寿命を縮めます。ソース抵抗に半固定抵抗を使用し、直流バランスを調整しています。
出力側のソースフォロアは、ラインアンプの利得が大きく、僅かな直流電圧でもそれが増巾されるので、直流カット用のコンデンサを入れました。
この定数での減衰特性をLTSpiceでシミュレーションしてみました。C2の値が0.065μFになっているのは、実測値に合わせたためです。センター位置では、高域側、低域側とも、ほぼフラットになっています。コンデンサや抵抗の値をボリュームのセンター位置での割合である
13%に合わせていませんが、これでも問題なく使えそうです。
では、安井さんの記事にあるように低域出力側の抵抗(図中でR7)を変えてみた時の特性をシミュレーションしてみます。まず、
R7を1kΩにしてみます。高域側のコンデンサは、R7の値の影響を受けるので、本装置と同等の特性になるように変更しています。
これもコンデンサや抵抗の値をボリュームのセンター位置の割合である13%に合わせていませんが、特に問題のない結果です。
続いて、R7をほぼゼロ(0.1Ω)にしてみます。高域側だけでなく、低域側のコンデンサもR7の値の影響を受けるので、本装置と同等の特性になるように合わせようとしましたが、高域側は無理のようです。しかも、ボリュームのセンター位置で、若干のうねりが出ます。
ぺるけさんのように、C1の上側とC2の下側に抵抗を追加するとうねりを抑えることができるようですが、調整範囲が狭まってしまいます。
本回路の定数の選び方の問題かもしれませんが、場合によってはR7はあった方がいい時もあるようです。
(2)ラインアンプ
ラインアンプの回路を下図に示します。基本的には、フォールデッドカスコードの1段増巾アンプなのですが、
調整範囲を広げるためと、素子の選別を用意にするためカレントミラーで電流増幅する回路を追加しています。この回路は、
直流的に対称動作するようにできるため、ドリフトの発生を抑えることができます。
昔、ラックスのアンプやキットに使われていましたが、NFBアンプであったため、直流的に対称動作させてはいなかったようです。
もったいないことです。
入力は2SJ75のBLランクです。初段に使えるDual FETが値上がリしてしまったので、
2SK364の選別品にしようかと思ったのですが、サトー電気で2SJ75が比較的安価に入手できたので、これにしました。
2SJ75のBLランクが入手できない場合は、2SJ104のBLランクを選別して下さい。2SJ103を使用する場合は、
2SC3478のコレクタ側に接続されている4.7kΩを10kΩに変更すれば、ほぼ同じ利得になるはずです。
定電流回路の2SK246は、GRランクでも使用できますがBLランクの方が設定範囲が広いのでBLランクをお勧めします。
いずれにしても個体差があるので、ソース側の抵抗を変更して所定の電流が流れるようにして下さい。2SA1376/2SC3478は、
2SA1015/2SC1815と置き換えできます。
カスコード接続に使用している2SJ104は、2SJ103でも使用できます。GRランク、BLランクとも使用できます。
(3)電源
18Vのトランスが4個を使い、整流した後、安定化し、±18Vの電源を作ります。左右別電源にしました。
整流回路には、3300μFのコンデンサを入れています。基板以降の回路を下図に示します。特別変わった部品は使用していません。
4.組立
プリント基板
基板組立
組立途中
入力電位を合わせる抵抗。セレクタに取り付けました。
5.音
お寺大会の課題発表の前に、お寺のJBLを鳴らしてみました。音の変化が少なく、一部の低音マニアには非常に好評でした。
ヘッドホンアンプに繋いで聞いてみても、雑音レベルが低く、通常の音楽再生でノイズが聞こえることはありません。
低音を強調するなどの使い方ができるので、気分よく音楽を楽しむことができます。
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