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2SK30ATMゼロバイアスMCヘッドアンプの製作記録(2009年8月23日)
2SK68Aを8個パラにしたゼロバイアスヘッドアンプはこちら
2SK117を5個パラにしたゼロバイアスヘッドアンプはこちら

はじめに
1.設計と製作
 (1)FETの選択と動作条件
 (2)電源部
 (3)アンプ部
 (4)ケースなど
2.ノイズ、音

はじめに
 無線と実験1976年12月号に牧誠さんが紹介しているFETゼロバイアスMCヘッドアンプは、部品数が少なく簡単な構成のアンプです。しかしながら、 希望する電源電圧に合うような、IDSSのFETが手に入れば問題ないのですが、そうでない場合はFETの特性に合わせてドレイン抵抗、 電源電圧を決めなければいけません。また電源にノイズがあると、それがそのまま出力に出て行きますので、ノイズを減らす必要があります。このため、 意外に手強いアンプでもあります

1.設計と製作
(1)FETの選択と動作条件
(a)9V乾電池を使用する場合のFETの選択
 作りやすさから言えば、006Pの9V乾電池を電源とするのが便利だし、作例もいくつかあります。

 無線と実験1976年12月号の牧誠さんの記事からFETゼロバイアスヘッドアンプの設計に必要な式を引用し、計算してみます。 FETは、IDSS(mA)、gm0(mS)とその代表値、IDSST、gm0Tには下式のような関係があります。 (実際のFETは、IDSS が IDSST から離れるに従い、差が大きくなるようです。)

  (1)

 ゼロバイアスでアンプを組む場合、ドレイン抵抗をRD(kΩ)とすると、増幅倍率Aは、
   A=RD×gm0    (2)

 RD(kΩ)に発生する電圧V(V)は、
   V=RD×IDSS    (3)

 となります。

 ヘッドアンプに使えそうなFETのIDSSTとgm0Tをデータシートから読み取ってみた結果を下表に示します。

FET IDSST (mA) m0T (mS)
2SK30ATM 4 3.2
2SK68A 9 15 16.3
2SK117 9 22
2SK170 8 37
2SK369 9 50

 ヘッドアンプのようにAが10とか30とかに決まっていて、電源電圧も9Vの電池を使用するような場合は、AとVからIDSSと RDを決めるのが便利です。上の(1)~(3)式から
   IDSS=(gm0T2×V2÷IDSST÷A2    (4)

   RD=IDSST×A2÷(gm0T2÷V      (5)

 となります。
 Vを4.5V、Aを10とし、上の表の値を(4)、(5)式に当てはめてみると下表のようになります。9Vの乾電池で動作させる場合に適当なFETは、 2SK68A、2SK117あたりになります。2SK30ATMだと、IDSSが小さ過ぎて選別が難しいし、余った2SK30ATM (oランク) の使い道に困ります。 また、ドレイン抵抗が大きくなり、ノイズの点で不利になります。逆に、2SK170、2SK369だと、IDSSが大き過ぎて やはり選別が難しくなります。
 実際には、IDSSが違っていても、Vの値が実用域を超えない範囲であれば使用できます。 次の「(b)AC電源を使用する場合のFETの選択」で、RDを計算してみれば、使えるかどうか分かります。
 いずれにしても006Pの9V乾電池を使用する場合は使用できるFETが限られるため、適当なIDSSのFETが入手できるかどうかで 製作の可否が決まってしまいます。

FET IDSS (mA) RD (kΩ)
2SK30ATM 0.52 8.7
2SK68A 5 5.8 0.89 0.75
2SK117 10.9 0.41
2SK170 34.7 0.13
2SK369 56.3 0.08


(b)AC電源を使用する場合のFETの選択
 電源電圧を変えてもよければIDSSの選択範囲はかなり広くなります。(1)、(2)式からAとIDSSを 決めた時のRDが求まります。
           (6)
 (3)式からRDの電圧降下V(V)が求まります。

 2SK30ATMの例を以下に示しますが、 RDによる電圧降下を大きくなるようにすればIDSSが大きくても実用になります。
 手持ちの2SK30ATM-Yを調べてみたら、IDSSのが2.3~2.6mA付近に40個以上集まっていました。これだと、電源電圧を18Vくらいにし、 2SK30ATMを10個パラにし、RDを4kΩの1/10である400Ωにすれば、実用になるヘッドアンプが作れそうです。 パラにすることで、ノイズ的にも有利になります。
 そこで、IDSSの平均値が揃うように10個ずつ4組選び、そのうちの2組を使って製作してみることにしました。 平均のIDSSは、2.47mAです。
 (つまり、下表の黄色表示に示すように、2SK30ATMが10個パラ、 IDSSの平均値が2.47mA、RDが400Ωになるように組みます。RDによる電圧降下が 約10Vです。)


 ちなみに、同様の計算を2SK68A、2SK117、2SK170、2SK369でも行ってみました。 (但し、実際には、IDSS が IDSST から離れるに従い、差が大きくなるようです。データシートで確認して下さい。)
 gmの大きなFETは、10倍増幅だと電圧降下が小さくなり、使い難いことが分かります。しかし、30倍増幅ならば、 gmの大きなものが有利になります。









(2)電源部
 FETのゼロバイアス増幅でRDが電源に直結していますから、電源にノイズがあるとそれがそのまま出力に出てきます。このため、 電源のノイズを抑える必要があります。
 今まで無帰還アンプに使ってきた無帰還タイプの電源では、ノイズの面で苦しいと予想されます。またレギュレータの出力にCRフィルタを入れる場合、 電源ON時の突入電流を防ぐ必要があり、電流制限回路が必要で、複雑になってしまいます。そこで、DACの製作のときに良好な結果が得られている 三端子レギュレータとCRフィルタの 組み合わせにすることにしました。ノイズ低減にはCRフィルタを2段に重ねることにします。
 トランスは、30年ほど前に手に入れたカットコアでケース付きのものです。誘導ノイズを抑えるために使ってみました。また下の写真に示すように、トランスからのノイズを抑えるために絶縁ブッシュでケースから浮かせてみました。ノイズ対策になりそうなものは、やってみようという試みです。


 電源部の回路図を以下に示します。電源基板は、左右の電源を別にしプラス・マイナス両方に抵抗を入れています。このヘッドアンプに接続する他のアンプと、 AC電源を通じての干渉を抑えてみようという試みです。効果ははっきり確認できませんし、気休め程度かもしれません。
 整流した後に、18Vの三端子レギュレータで安定化します。その後、4.7Ω+4.7Ωと6800μFのフィルタを入れています。電源基板からの出力は、 4.7Ω+4.7Ωの抵抗を介しています。アンプ基板に6800μFのコンデンサを入れるので、全体として2段のCRフィルタになります。


 基板は、ユニバーサル基板を使いました。部品配置を下図に示します。



(3)アンプ部
 入力抵抗は、少し高めの240Ωにしています。手元にあるDL-303や、利用者の多いDL-103に合うような値にしています。また、入力抵抗の値については、 無線と実験1978年2月号150頁あたりに、MCカートリッジ製作側の立場からのコメントがあり、5~10倍のインピーダンスで受けるのが音質的に有利とのことです。 この記事も参考にして、240Ωにしてみました。
 2SK30ATMの全てのゲートには1kΩの抵抗を入れています。ドレイン抵抗は、2kΩを5パラにして400Ωとしています。使用している抵抗は、金属皮膜抵抗です。
 出力には、直流カット用に0.33μFのフィルムコンデンサをパラに入れました。単に、手元にたくさんあったためです。また、出力に入れている1800pFは、 200kHz以上の高域をカットするためのものです。カートリッジのインダクタンスが小さいとケーブルの容量などとの数MHのLC共振で、ラジオの電波や、 周囲のノイズを増幅する可能性があります。この高周波ノイズがイコライザアンプに入ると、ハムが出たり、ラジオが聞こえたりすることがあるのでその対策です。
 電源は、電源基板から来る電流を6800μFで受けた後、100μFのOSコンデンサとフィルムコンデンサを入れています。回路図と基板の配置図から分かるように、 左右のアースを共通にするのはOSコンデンサ以降にしています。


 基板は、ユニバーサル基板を使いました。



組みあがった基板です。


(4)ケースなど
 ケースはタカチのものを使っています。トランスは、絶縁ブッシュでケースから浮かせていますが、効果は分かりません。同様に電源周辺のスイッチ、 コネクタ類は、絶縁性の高いものを選んだつもりです。MCヘッドアンプですから、ケース内の制約はあるものの、 なるべくアンプ部をACラインから離すようにしました。





2.ノイズ、音
 電源を入れ、各部の電圧をチェックしてしてから、増幅率を測定してみました。計算では10.0倍となる予定ですが、実測では10.1倍でした。ほぼ、 予想通りの結果になっています。
 MCヘッドアンプですからノイズがあると使いものになりませんが、幸いなことにノイズは非常に低いレベルです。電源や部品の配置を検討した総合的な結果と 思われますが、MCトランスに較べて少しノイズが増える程度に収まっています。
 音を聴いている感じではノイズレベルは非常に低いのですが、どの程度なのか測定してみました。しかし、実際に測定器を接続してみると、 私の持っているミリバルの限界を超えていて、正確には測定できません。なんとかメータを読んでみると、入力をショートした時に出力には、 2~4μV程度のノイズが出ているようです。電源のノイズは、ワニ口クリップでコンデンサを接続したりして外乱を受けやすい状態だったためか 10μV程度の読みとなりました。しかし、電源に10μV程度のノイズがあれば、出力にはこれ以上のノイズが出るはずなので、 実際にはかなり低いレベルと考えられます。

 音ですが、以前DL-303をMCトランスで昇圧して聴いた時と、今回のMCヘッドアンプで聴いた時では、細かい音の出方がかなり違うようです。 MCヘッドアンプの方が安心して聴くこことができます。


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