NO-NFB MOS-FET 15W パワーアンプの製作
はじめに
1.設計と製作
(1)アンプ部
(2)電源部
(3)アース
(4)保護回路
2.音
最後に
はじめに
故障して、1年くらい放置状態にあったパワーアンプを修理しようと思って、部品の状態を確認しながら分解したところ、あちこち問題がありそうだったの
で、可能な限り作り替えることにしました。 結局、UHC-MOS FETを使った新しいアンプが完成することになりました。
NO-NFBアンプ(NON-NFBンプ,無帰還アンプ)ではありますが、以前から興味があったDCサーボを組み込んでいます。 今までは、ケミコンと
抵抗の組合わせで十分大きな時定数を確保し、かつ音質への影響を無視できるものを作るのは難しいと考えていたため手を出していなかったものです。 しか
し、最近は、大容量の積層セラミックコンデンが入手可能です。 これだったら、J-FET入力オペアンプと大きな値の抵抗を使うことで、時定数の大きく、
可聴帯域への影響を無視できるDCサーボが可能になると考えられます。
高誘電率のセラミックコンデンサは、オーディオ信号を通過させる用途には向きませんが、可聴帯域を減衰させてしまうようなフィルターとしての使い方であ
れば問題ないと考えられるので、作ってみることにしました。
1.設計と製作
(1)アンプ部
今回のアンプの回路図を示します。
私がNO-NFBアンプを作る場合の基本的な方針は、(a)動作に余裕を持たせること、(b)歪みを小さくすること、(c)温度変化による影響を小さく
することなどです。
(a) 動作に余裕を持たせるために、増幅段の電流変化は、動作点における値の0.5~1.5倍程度で最大出力が出るようにします。
(b) 歪みを小さくするためには、エミッタ(FETであればソース)に挿入する抵抗を大きな値とします。 特に、2段増幅の場合の2段目は、挿入した抵
抗の電圧降下を5~10V程度とします。
(c) 温度変化の影響を小さくするためには、直流的に対象動作させることと、素子の温度変化の影響を受けにくい回路を採用します。
このようなアンプを作ろうとすると、上記(a)と(b)を両立させるために、電流を確保しながら、出力電圧も十分とれる回路にする必要があります。
2段目は、出力電圧が大きいため、(a)を満足させるには、最大ピーク出力電圧の2~3倍程度の電源に抵抗を接続して負荷とする方法と、定電流負荷で電
流を多めに流しておいてアースに接続した抵抗を負荷にする方法が考えられます。 ここでは、後者の方法を採用しています。
しかしながら、(b)を満足させるためには、2SB716のエミッタ抵抗の電圧降下の約1.5倍の電圧+2SB716の動作を確保する電圧の5Vを余裕
分として確保する必要があります。
2段目のピーク出力電圧は、出力段の最大出力時の電源電圧が18V、その時のMOS-FETのゲート電圧が+4Vとして約22Vになります。2段目
2SB716のエミッタ抵抗の電圧降下分は5Vですから、余裕として必要な電圧は7.5V+5Vの12.5Vになります。結局、電圧増幅段の電源電圧は、
22V+12.5Vの約35Vが必要になります。
(c)の温度変化による影響を小さくするため、初段はDual
FETの差動増幅にし、初段と2段目は直流的に対象動作するようにしています。これにより、ドリフトが小さい回路となっています。 初段の電流は、
2SK30の定電流回路で決定しています。 また、2SK58の反転側は、信号を取り出す訳ではないので、抵抗の替わりにツェナーダイオードにしました。
出力段は、かなり前に、若松通商で買った2SJ217/2SK2586です。 出力15Wのアンプに使うにのは、Pdが大きすぎてバランスがとれていな
いのですが、現在の状況だと他に使う見込みもないので使うことにしました。
FETですから、電圧増幅段と直結して使うことも可能ですが、入力容量が大きいためにスピーカの逆起電力など、外乱の影響を受け易いように思えたので
2SB716/2SD756のドライバー段を入れた構成にしています。
出力段のバイアス電流は、200mAにしてありますが、熱的にはだいぶ余裕がある設定にしています。 バイアス回路は、MOS-FETのバイアス電圧が
高めなので、トランジスタのエミッタ側にダイオードを1個追加した構成にしました。熱結合はしていませんが、電源を入れて30分くらい
経ってから調整した後は熱暴走することもなく安定に動作しています。
(2003.12.6)
熱結合はしなくても比較的安定ではありましたが、連続でテスト信号を入れたりするような場合、パワー段の発熱によりアイドリング電流が高くなります。
このため、バイアス電流設定用のトランジスタを放熱器に接着することにしました。 その結果、温度補償が少々効き過ぎ状態になり、放熱器の温度が上がるに
従ってアイドリング電流が下がっていく状態になりました。 しかし、不安を抱えながら使うよりは、こちらの方が良いと思われたのでこの状態で使うことにし
ました。 これで、連続してフルパワーに近い状態が続いても安心して使えます。
パワーアンプ部 前回のアンプのものを利用したので、出力段周辺が隙間だらけ。
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DCサーボ回路ですが、可聴帯域でNFBが掛からないようにするため、47kΩと47μFのローパスフィルターを使っています。一般的な使い方よりも時
定数を大きくしてあります。 このため、パワーアンプ部の直流バランスを調整をするために定電流回路や2SD756のベース側の半固定ボリュームをいじる
と、安定するまで数秒かかるような状態になっています。
また、オペアンプは可聴帯域のゲインを1とし、更に出力にもローパスフィルターを入れ、サーボアンプからのノイズを防ぐようにしてあります。
サーボ回路には、オフセット調整回路を入れてあります。 このオフセット調整回路が無くてもドリフトは±10mV以内に納まりますが、どうせなら出力の
ドリフトを0近傍にしたいので、調整できるようにしました。 パワーアンプの回路は、もともとドリフトが少ないためか、最終的にドリフトは±1mV以内に
収めることができました。
(2003.12.6)
DCサーボ回路の有無により音質に影響があるかどうか確認してみました。 聞いた曲は、エリッククラプトンの「ピルグリム」です。 DCサーボを有効に
した時と、外した時で何回か再生してみましたが、差はないようです。
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左側がDCサーボ回路、右側は保護回路
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(2)電源部
前回のアンプが故障した原因は、この電圧増幅段用定電圧電源の保護回路に使っていた2SA733が壊れていたためでした。 定電圧電源の出力に大容量の
ケミコンを入れていたため、保護回路に負荷がかかっていたようです。
このため、今回のアンプでは、出力側のケミコンを一般的な容量に戻し、保護回路のトランジスタは、過電流が流れにくいようにしました。 パワー用の石
は、丈夫なMOS-FETに変更しました。
出力段用の電源ですが、以前は定電圧電源を使っていました。しかし、出力段にMOS-FETに変更する場合は電圧損失が大きいことが予想されたので、試
しに定電圧電源なしで動作させてみることにしました。 アースのところで述べますが、結局パワー段の定電圧電源がなくても問題はないようで、このままの回
路となりました。 あと、DCサーボ回路の電源は、三端子レギュレーターを使って供給しています。
(3)アース
パワーアンプはアースに大きな電流が流れる場所があるので、配線に気を付けないと動作が不安定になったり、音質に影響したりします。電流を流すアース
と、流さないアースを分けて配線するのが鉄則です。
以前は、スピーカー出力端子のアースを安定させるような配線をしていたのですが、今回のアンプでは、パワー段のアース周りを、安井さんのアース配線方法
を一部利用してみました。 そのせいか、定電圧電源なしでも低音のもたつきが気にならなくなったので、パワー段の定電圧電源は使用しなくいことにしまし
た。 また、DCサーボ周りですが、アースによる影響を防ぐため、±15V三端子レギュレータまではトランス側のアース、オペアンプ以降はアンプ側のアー
スにしています。
アンプ全体
出力段用の定電圧電源がなくなったので、隙間が多くなっています。
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(4)保護回路
保護回路を以下に示しますが、リレーを使い、直流電圧が出力されたときに遮断するような一般的なものです。 電源ONのときは、5秒間くらい経ってから
スピーカーとの接続がONになります。また、電源をOFFにしたときは、直ちにスピーカーを遮断するように整流回路のケミコンの容量を調整してあります。
2.測定結果と音
NO-NFBアンプの場合、特性を測定することに意味があるかどうか問題ですが、一応測定してみました。 ゲインは15倍、周波数特性は、10 ~
50
kHzの範囲ではフラットでした。それ以降は徐々にゲインが落ちていき、-3dBポイントは400kHzあたりと思われます。 高周波数領域にピークなど
は現れていませんので、発振することもなく、安定に動作しているようです。 クリッピングポイントは、19W付近です。 出力インピーダンスは、On-
Off法で0.37Ω(2.8V
/ 1kHz、10kHz)でした。
1kHzにおける歪率ですが、無帰還アンプといっても電圧増幅段はピーク電圧で±30V程度まで増幅できる余裕があるため、歪率が低めのまま出力が上
がっていきます。クリッピングポイントを超えると(20W付近)急に歪率が上昇します。
1kHz(発振器OCR11)、サウンドユ
ニット:KORG U1、FFTソフト:WaveSpectra、
WaveSpectraの入力レベル:約-15dB、窓関数:ブラックマン-ハリス、サンプルデータ数:4096
NO-NFBアンプらしく、奥行き感があり、音量を上げてもうるさくならない音です。アースの配線を変更したせいか、或いはUHC-MOS-FETのせ
いか、よく分かりませんが、素直でくっきりした音のように感じます。
最後に
1年半ぶりに、パワーアンプを修理しようと思って作業を始めたら、予想外に変更点が多くて、結局ほとんど作り直しになってしまいました。使ったUHC-
MOS-FETは、大出力で入力容量も大きいので、出てくる音が不安でしたが、軽快に鳴ってくれています。
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