DENON DP-80の修理(2016年11月)
中古で20年ほど前に入手したDENONのターンテーブルDP-80ですが、最近は電子ブレーキが効かなくなってきました。手で、強引に止めて使っていましたが、ちょっと使い難いので修理に挑戦することにしました。
DPー80に限らず、DENONのターンテーブルは修理の情報がたくさん公開されているので、準備する部品もある程度検討はつきます。既に10年くらい前から情報はあったので、ある程度理解しているつもりでいたのですが、実際に部品を集めてみるとトランジスタが製造中止になっていて代替品を探すことになりました。特にPNPトランジスタの高耐圧品が入手困難で、規格表を眺めて使えそうなものを選びますが、どれもこれも既に入手困難になっていて苦労することになりました。もちろん、お金を払えば買えるものはあるのですが、それでは面白くありません。自作メニアならば、なるべく他の人が使っていないようなものを選んで安く入手し、選別して使うことに意義があります。
1.部品
トランジスタ
2SC458: 基板に付いていたものは、マニュアル通りDランク(hfe 250~500)でした。古い角型パッケージのものは、経時劣化が大きいようなので全部交換します。数年前に大阪の日本橋へ行き、デジットに寄ったところ新型パッケージの2SC458 Dランク が安く売っていたので買ってしまいました。20個100円でした。DP-80の修理に使えることは頭にあったものの、買ったときは使うことは無いだろうなと思っていたのですが、今回は役にたちました。
2SA673: 基板に付いていたものは、Cランク(hfe 100~200)でした。これは、2SA1015で代用できることがネットからの情報で分かっていたので、手持ちのGRランク(hfe 200~400)を使用します。
2SA879: 今回の問題の一つがこれでした。既にかなり入手困難になっています。しかも、サービスマニュアルにはRランク(hfeが100~220)を使うと書いてあります。高耐圧の代替品で、2SA879に特性が近く、hfeがこれくらいのものはなかなか見つかりません。
ネットを調べてみると、DP-80ではなくDP-60Lの修理ですが「がんこおやじのチャレンジ日記」
に2SA1320に置き換え可能だという記事があります。しかし、熱的に少し不足気味だしhfeが適合するのか情報がありません。規格表よく見ると、2SA1320の隣に2SA1321があります。こちらだと、熱的に2SA879と同等です。しかも、特性を見ると熱容量以外は2SA1320とほぼ同じです。そこで、これをいくつか買ってhfeの適切なものを使用することにしました。 2SA1321を二つの店から30個ずつ買い込んでhfeを測定してみたら、60~90のものと、100~130のグループになりました。今回はこのうち、hfe122のものを交換に使いました。
なお、DP-80に付いていた2SA879は、サービスマニュアルと違ってQランク(hfeが60~150)でした。コレクタ-エミッタ間電圧5V、電流5mAの条件でhfeを測定してみると83です。経時変化で劣化している可能性はありますが、このくらいのhfeであれば問題なく動作すると考えてよさそうです。
2SA879はサービスマニュアルではRランクと書いてあったが、実際に付いていたものは、
Qランクでhfeは83であった(C-E間電圧5V、電流5mAの条件)。
hfeはこのくらいで動作するようだ。
2SC2023: これは置き換えの難しい石ですが、まだ若松に在庫があるので買うことにしました。放熱器を付けて使っている訳ではないので、熱容量はほとんど必要なくて、耐圧とhfeがある程度高いものでいいのですが、代替えできそうなものはほぼ入手できなくなっています。
2SB568と2SC2168: 耐圧200Vで30Wのトランジスタですが、内部の熱抵抗は約4.2゚C/Wです。今回置き換えたフルモールドタイプの2SA1668と2SC4382は耐圧200V、25Wであり、内部の熱抵抗が5゚C/Wです。つまり、0.8℃/Wほど熱抵抗が大きくなっています。DP-80の基板上での使い方は、放熱器が小さい(約50c㎡;熱抵抗が約10゚C/W)か付けていない(熱抵抗が約70゚C/W)かですので、0.8℃/Wほど熱抵抗が増えてもジャンクション部分の温度上昇の差は無視できるレベルになります。つまり、置き換えてもほぼ問題なく使用できることになります。また、2SA1668と2SC4382は秋月で格安で売っていますので使わない手はありません。
2SD468: 低電圧大電流用の石で、5Vの電圧で使用するので、置き換えは難しくないと思われます。サービスマニュアルにはDランクが指定されていますが、新しいデータシートにはDランクの記載がありません。いずれにしても、hfeの高いものが必要と思われます。今回は、交換しませんでしたが、念のためhfeの高い2SD773のK4ランク(hfeが250~400)を準備しておきました。
2SA778A(K): これは、手元にほぼ同等特性の2SA1376AのKランク(hfeが200~400)があったので、置き換えが必要なら交換しようと準備していました。しかし、交換しなくてもちゃんと動作したので今回は見送りです。
2SD669A: これは、Cランク(hfeが100~200)が指定されています。秋月で売っている東芝のTTC008が、耐圧、hfeの点で置き換え可能と思われたので準備していました。しかし、交換しなくてもちゃんと動作したので今回は見送りです。
フォトカプラ PC613,PC614: シャープのフォトカプラですが、ネットでは劣化しやすいとの情報があるので交換することにしました。若松でまだ売っているし、欠品になると入荷するようなのでまだ手に入ります。しかし、データシードが手に入りませんので、素性が分からないのが気になります。
HD7438P,HA17901P: TTLロジックICとコンパレータです。今回は交換しませんでしたが、同等品が手に入ります。HD7438Pは74LS38、HA17901Pは秋月で売っているNJM2901Nに交換可能と思われます。
SC3120: これは、書くまでもなく入手不可能でしょう。
TA7122AP: 個人が購入しようとしてもほぼ入手不可能です。と思っていたのですが横浜に出かけたついでに石川町にあるエジソンプラザに寄ってみたら、シンコー電機にありました。2016年11月中旬時点での話なので、無くなっていたらすみません。
シンコー電機で買ったTA7122AP
TA7122AP或いはTA7122BPが見つからなければ、AD8351のSOICパケージを変換ソケットに載せて代替品を作ろうと考えていたのですが、今回は試していません。
ケミコン: なるべく交換します。固体高分子コンデンサに置き換えできるところは、置き換えました。特に200V4.7μFは劣化しているので、400V10μFに置き換えました。
フィルムコンデンサ: マイラーというか、ポリエステルフィルムコンデンサは、ポリプロピレンコンデンサに置き換えてみました。
セラミックコンデンサ: これもなるべく交換しました。但し、水晶発振器のところの47pFは他の様子を見てからにすることにして、今回は見送りです。電源周りの0.001μFは、0.1μFに変更しました。
基板上の電源周り追加部品: 5Vの安定化した電圧が、コネクタで他の基板に供給されていますが、供給先の基板にパスコンが見当たりません。(私の探し方が悪いだけかもしれませんが) そこで、供給先の基板に470μF入れました。また、ロジックIC、コンパレータの近くに通常は入っているパスコンがありません。このため、0.1μFを基板の裏側からはんだ付けしました。
2.修理
裏側のカバーを外す。
劣化したスポンジを取り除く
基板を外してチェックしてみると、モータードライブ基板に腐食が目立ちました。2SC2168、ファストリカバリーダイオード、
抵抗、6Vツェナーダイオードのリード線が腐食していましたので、ツェナーダイオード以外は交換しました。
6Vツェナーダイオードは、電圧が変わると動作に影響が出る可能性があるので、リード線を洗浄して再度はんだ付けしました。
モータードライブ基板の修理後。6V電源はツェナーを使ったシャントレギュレータなので、OSコンを入れました。
腐食が目立ったファーストリカバリダイオード1S1834は手元にあったUF004に変えました。トランジスタは、動作を安定化するため、
放熱器を追加しています。
フィルムコンデンサは、ポリプロピレンコンデンサに変更
2SC2023は交換し、放熱器を追加しました。モーターとの干渉を防ぐため、斜めに付けています。
半固定抵抗は、コスモスとコパルの混合。実は、コスモスだと大きすぎて2個を収めることができなかったので、
やむおえず一個をコパルに変更しました。コンパレータにはパスコンを追加し、5V電源にはケミコンを追加しました。
(次に示す基板からコネクタを通して供給されているので、5V電源を安定化するため)
ケミコンの一部をOSコンに変更。他も変更したい部分はありましたが、
三端子レギュレータの後ろに
直接OSコンを入れると
発振する可能性が高くなるのと、スペースの関係で2個のみ変更しました。
左上のケミコンは、200V4.7μFを400V10μFに変更しました。200V4.7μFは若干液漏れしたような形跡がありました。
ロジックICにパスコンを追加
モーター底部と裏側ケースのクッション材に使えそうなものを探していたら、シリコン鍋敷きが目に止まりました。
これを、自動車の窓などに接着する耐熱性の両面テープを使ってつけることにしました。両方共、耐熱性は問題なく長期間使えそうです。
両面テープをモーターの底面に貼り付けます。
これにシリコン鍋敷きを適当な大きさに切リ抜いて付けます。
動作確認。ストロボは安定していて、殆どふらつきません。というか、全く動かないと言ってもいいレベルです。
立ち上がり、
回転数の切替、ストップもほぼ瞬時に効いています。我が家に来たときよりも、動作が安定したような
気がします。
以前は、時々、ゆっくり揺れたりしていましたが、修理後はそれがなくなりました。
交換した部品。交換しなくても動作した可能性のある部品も多いと思いますが、
今後のことを考えて
なるべく交換するようにしました。
3.試聴
昨年の引っ越しがあったりして、トーンアームなどは輸送モードになったままだったので、オーディオクラフトのAC3000のメンテナンスからやり直ししました。シリコンオイルを交換してダンプ量を調整し、カートリッジも通常使っているAT-160MLに取り替えます。針圧を調整して、レコードを再生し、インサイドフォースキャンセラーが適切であることを確認しました。
さて、アダモのベスト盤を再生してみると、音の揺れが少なくなったような気がします。2年前くらいに聴いたときは若干音が揺れる感じがあったのですが、今回は全くと言っていいほど感じません。CDを聴く感じと変わらないレベルです。半導体部品を交換し、電源周りを強化した効果が出ているのかもしれません。いずれにしても、今回の修理は大成功といえるでしょう。
元々、静かでノイズが聞こえることの無いターンテーブルですが、(当然のこととはいえ)修理後もそのままです。アンプ系が無帰還ということでスクラッチノイズが目立ち難いため、新品に近いレコードを再生すると、CDを再生しているのかと思うほどノイズが少なく、落ち着いて聴くことができます。
4.まとめ
入手困難な部品はネット検索などで代替品を探し、無事修理することができました。今回、交換可能な部品をかなり集めたので今後の修理には困りませんが、入手不可能な部品もあり、いつまで使えるか心配です。
使えるうちに、アナログレコードをデジタル化するなどしておきたいものです。
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