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金田明彦氏が最初に発表したアンプについて

 最近、オークションで無線と実験1973年7月号を落札しました。 無線と実験は、1974年1月号から1985年あたりまでずっと読んでいたのですが、読みたいと思っていながらチャンスがなかったのが金田明彦氏の最初のアンプ製作記事です。 オークションでは、値段が高かったのですが、読みたいという誘惑に負けて、落札してしまいました。
 読んでみて、1973年当時のアンプの常識と、その後のオーディオアンプの発展に大きな影響を及ぼした金田先生のDCアンプとの落差が大きかったことを改めて認識しました。 このことについて書きたいと思います。 記事の内容もNO-NFBアンプでしたので、ここのサイトの目的にピッタリです。 

1.金田式DCアンプについて
2.金田式DCアンプ第一号(B級NO-NFBアンプ)
3.音質の評価について
4.80年代以降の金田式アンプ

1.金田式DCアンプについて
 私が考えている金田先生の最大の功績は、現在あたりまえになっているアンプの原型を作ったということだろうと思います。 無線と実験1973年7月号の記事には、それ以降しばらく続く差動2段増幅DCアンプが 既に 形になっています。

 このころのアンプは (同じ無線と実験1973年7月号を見るとよく分かるのですが) 、その後の80年代以降主流になったアンプと考え方が異なっていました。 1973年頃のアンプの常識をいくつか拾ってみます。

(1)直流成分に100%負帰還をかけるのが当たり前で、帰還回路に大容量のケミコン(図1の代表的な回路例のケミコン2)が入っていました。また、入力側にも直流信号をカットする為と、トランジスタのベース電流をカットするためのケミコン1が使われていました。

 当時のケミコンは、音質を意識して製造されたものがなかったと思います。また、ケミコンが音を悪くしていることについて、あまり認識されていなかったと思います。 金田先生のDCアンプは、この直流をカットするためのケミコンが音を悪くしていることを示してくれました。金田式アンプの登場以降、音質のよいケミコンが製造されるようになりました。
(2)初段はトランジスタを使うのが普通で、FETはノイズの点で不利だと言われていました。このため、初段にFETが使われる例はほとんどありませんでした。

上の(1)、(2)と関連しますが、初段のトランジスタはhFEが揃っているもの選び、下の回路例のR1とR2は同じ値の抵抗を使うのが普通でした。これは、トランジスタのバイアス電流によって発生する電圧によって、出力に直流電流が出るのを防ぐためです。
(3)現在では使われなくなっているブートストラップ回路(下の図1のブートストラップ用ケミコンを)を使うのが当たり前のようになっていて、メーカー製アンプ(Onkyo Integra A-722)の回路にも しっかり使われています。 ブートストラップ回路は、交流成分のNFBは増えるし、安定性は悪くなるのですが、交流ゲインが増え、NFB量が増えることによって見掛けの特性はよくなりますのでよく使われていました。
ブートストラップ回路を使わない場合は、電圧増幅段を3段にしたり、定電流負荷を用いたりして裸のゲインを稼ぎ、NFBで見掛けの特性をよくすることが当然のことと思われていたのです。

 ブートストラップ回路は、見掛けの特性を良くしようとしてちょっと強めに設定すると、音が歪みっぽくなり、うるさくて聞いていられないような音になります。メーカー製でも、音量を上げると音が歪みっぽくなるアンプがありました。それでも、電気特性は素晴らしい特性を示していました。
 ブートストラップは、弱めに設定したとしても、音質が悪くなることはあっても、良くなることはなかった思われます。 この回路が、普通に使われていたということから、当時のアンプの音が、いかにひどかったかということが分かります。

 以上のように、当時の一般的なアンプは音が悪くてあたりまえという状況でした。

 このようなことが常識だった世界にDCアンプを持ち込んで、1~2年のうちにアンプの概念を変えてしまったのが金田先生のすごい所です。  逆に言えば、アンプの設計者とか、オーディオマニアの人たちは、それまでのNFB偏重主義の回路に疑問を感じながらも、見掛けの電気特性が良くなることに目が向いていたということでしょう。 その概念を打ち破ることができた金田先生の力はすごいと思います。


図1

2.金田式DCアンプ第一号(B級NO-NFBアンプ)
 金田式DCアンプの第一号であるB級NO-NFBアンプ(NON-NFBアンプ、無帰還アンプ)の回路図を以下に示します。回路図は別に作成しようかとも考えたのですが、金田先生の記事に敬意を表して、オリジナルのものを載せさせて頂きました。
 1973年7月号の記事中には記載がないのですが、回路定数とトランジスタの規格から判断して、アンプのゲインは50dB位と思われます。 電圧増幅段と出力段の電源の電圧差が8Vと小さいので、NO-NFBアンプだと これくらいゲインを取るようにしないと 2段目の振幅電圧がとれなくなってしまいます。 しかし、このままでは、ゲインが大きすぎて使いにくいので、入力にアッテネッターを入れて約20dBゲインを落とし、トータルで30dB程度のゲインにしています。
 2段目の電圧は、エミッタフォロワーで受けて、出力段に渡しています。 これは、2段ダーリントンだとインピーダンスが十分ではなく、2段目の増幅に影響を与えるためと考えられます。


図2 無線と実験1973年7月号から


 電源部ですが、このあとに続くDCアンプシリーズでは電源用のICを使ったり、オペアンプを使ったりしていますが、最初のものは比較的オーソドックスは回路になっています。

図3 無線と実験1973年7月号から


 歪率特性ですが、下図に示すように非常に優秀です。50dBも増幅してこの特性ですから、それまでの「トランジスタアンプの裸の歪率特性は良くない」という概念を根本から覆してしまいました。


図4 無線と実験1973年7月号から

3.音質の評価について
 面白いのは、アンプの比較試聴記事です。寺田氏、安井氏のA級ではあるものの、図1に示す回路のアンプが、金田氏のアンプよりも評価が高いという結果になっています。 理由として考えられるのは、入力で20dB程度ゲインを落としており音質的に不利であることと、出力段がエミッタフォロワ+2段ダーリントンでありながらダンピング用の抵抗が入っていないことから、僅かながら寄生発振を起こしていた可能性があります。
 しかし、一番大きな理由は、DCアンプでしかもNO-NFBアンプという、それまで聞いたことのない音に耳が馴染まなかったためと考えられます。

 記事を書いたのは、音にこだわりを持っている当時の小川正雄編集長 (その後、無線と実験に金田式DCアンプ積極的に取り上げていました。金田式DCアンプを世に広めた功労者の一人と考えています。) でしたが、いきなり聞かされたDCアンプでしかもNO-NFBアンプの音に戸惑ったということでしょう。 現在、同じ評価をしたら、逆の結果になると考えられます。

4.80年代以降の金田式アンプ
 今でも、金田式DCアンプについて多数の報告があります。また、金田先生自身の記事も、よく見かけます。 しかし、音の素晴らしさを強調する面が強過ぎたり、金田先生の好みに没頭している面が強すぎて、最近は (というかだいぶ前からですが) ついて行けないなという感じがしています。 特定の部品にこだわることも問題で、 「金田式」という名前が付くと、異常に価格が高くなってしまい、”なんでこんなものが?” と感じることが多いです(金田先生の問題というよりも、販売店の戦略と、それでも買おうとするマニアのせいではありますが)。 

 ただ、先生の新しいものを追求する姿勢は、今でも素晴らしいと感じています。 いつかまた、新しい概念を広めて下さることを期待したいと考えています。


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