スピーカーも鳴らせるNO-NFBヘッドホンアンプの製作
きっかけ
1.設計
2.製作
3.測定結果、音
4.Chu Moyヘッドホンアンプもどきとの比較
ヘッドホンだけでなく、スピーカーもドライブできるように作ったNO-NFB(NON-NFB,無帰還)小出力アンプです。 出力段の石は
2SB733/2SD773を使っています。 以前(といっても30年くらい前ですが)、2SA772/2SC1474を使った小出力アンプを作った経験
から、低電圧・高hfeでPcが1W前後の石を出力段に使うことに決めていました。 たまたまオークションに2SB733/2SD773が出ていて、目的
にぴったりということで落札してあったものです。
完成したアンプはヘッドホンに直結してもノイズが全く気にならないので、抵抗を介すことなく直接ヘッドホンとつないでいます。 CORG
U1の内蔵ヘッドホンアンプとは、低音の伸び、透明感、奥行き感、分解能などの点で全く違った音が出ます。
きっかけ
2004年の正月に製作した(まだ製作途中ですが)プリアンプにはヘッドホンアンプを組み込もうと思っていました。
ヘッドホンアンプ回路の構成を決めるため、プリアンプのフラットアンプの出力 (出力インピーダンスが低いので十分ドライブ可能なのです) からケミコ
ンを介してヘッドホンを鳴らしてみたところ、ノイズは全く問題なく、透明感、低音の迫力がある音だったので、基本回路はフラットアンプと類似の構成にする
ことに決めました。 しかし、回路の構成を決めてはいたものの、複雑になりそうで躊躇していました。
そうこうしているうちに、2004年「手作りアンプの会」の「お寺大会」が迫ってきました。2004年夏のお寺大会では超低価格パソコンスピーカーの改
造がメインテーマでしたが、最近の安いスピーカーを改造してみたものの、予想外に音が悪く(あたりまえか・・・・)また改造の効果が出難いということが分
かり出品を断念しました。 そこで、ヘッドホン用として考えていたアンプを スピーカーも鳴らすことができるように出力を2W程度、出力インピーダンスを
0.4Ω程度にしたものを作ってみることにしました。
しかし、製作を始めてみると意外に時間がかかってお寺大会には間に合わず、結局 音が出たのはお寺大会の4日後になってしまいました。
1.設計
(1)アンプの回路
回路図を示します。 基本は最近使っている回路そのままですが、初段と2段目の電流を2mAと同じにして 2SA1349の熱的動作とカレントミラー回
路としての動作を安定させるようにしてみました。 アンプの増幅率ですが、主な用途はヘッドホンアンプですから、増幅率が大きすぎると使いにくいのでトー
タルで10倍程度にしています。初段は1倍、2段目は10倍程度です。
トランジスタ類ですが、初段は2SK389です。 ここのDual
FETは、初段のゲインが1程度なのでFETのgmに合わせて共通ソース抵抗を変更すれば他のDual
FETでも特に制限無く使用できます。 初段の定電流回路には、2SK30Aを使っています。2mA流した時のゲート-ソース間電圧が1V前後のものを使
いましたが、異なる場合はソース抵抗を変更すればOKです。もちろん、他のJ-FETも使用できますし、IDSSの大きなFET1個で済ますこともできま
す。
2段目は、2SA1349です。前述したように、初段と2段目の電流を同じにしてあります。この部分は、SATRIアンプに近い動作と考えることもでき
ると思います。 負荷抵抗は、バイアス電圧調整回路の温度変化によるドリフトを軽減するため、バイアス電圧調整回路の両端に22kΩ2本をパラに接続して
います。
バイアス電圧調整回路は一般的なものですが、ベースに入っている470Ωはトランジスタの熱結合で配線を引き回したときに不安定になるのを防ぐために入
れてあります。
出力段は3段ダーリントンにしました。しかし、2SB733/2SD773のhfeが300程度ありますので2SA970/2SC2240はなくても問
題ないと思われます。 最終段の5個パラにしている2SB733/2SD773は、hfeの差が5%以内のものを選別してあります。 エミッタ抵抗は、ス
ピーカーを鳴らすことを考えて1Ωにしました。 これは、0.47Ωでも問題ありません。 ヘッドホンアンプ専用にするならば、エミッタ抵抗は
10~30Ωのものが使用できます。この場合は2~3個のパラ接続でよくなりますし、hfeのバラツキの許容範囲が広くなります。
(2)DCサーボ回路 (2007年1月2日変更)
ヘッドホンアンプとして使うため、ドリフト(オフセット)は数mV以内、可能ならば1mV以内に納める必要があります。 ドリフト(オフセット)が大き
いと、直流バイアスの影響で極端に低音が強調されたような音になってしまいます。このため、DCサーボ回路を組み込みました。
DCサーボ回路を以下に示します。DCサーボ回路による音質への影響を抑えるため、大きな値の抵抗を使っています。こうなると、トランジスタ入力タイプ
のOPアンプはバイアス電流の影響が出るので、FET入力タイプのOPアンプにします。ここでは、LF411を使いました。
Aから入ってきた信号は、100kΩと47μFのハイカットフイルターを通った後、OPアンプに入ります。 OPアンプの
入力には、ダイオードの保護回路を入れています。 LF411は10μFを帰還回路に入れ、音声帯域のゲインを1にしています。 OPアンプの出力は、
LF411からのノイズを防ぐため、ハイカットフィルターを通ってアンプの反転入力側に戻ります。
ドリフト電圧(オフセット電圧)の調整は、反転入力側に微少電圧を供給する調整回路を入れて行います。
当初は、LF411のオフセット調整回路を利用しようと思ったのですが、組み上げてみたらうまく動作しないことが分かったのでこの回路にしています。 基
板のスペースがあれば調整用の電源をもっと安定化したものにできるのですが、今回はこのままとしました。
(2007年1月2日変更) DCサーボ回路の基準電源ですが、以前は電圧増幅段の定電圧電源から作っていました。しかし、スピーカーを鳴らすよ
うな使い方をすると、出力に直流電圧が少し出ることが分かりました。これは、出力段に電流が流れることによって、定電圧電源が少し変動することが原因のよ
うです。そこで、下図のように定電流ダイオードと汎用ダイオードを使って基準電源を安定化してみました。 そ
の結果、直流電圧が出るような現象はなくなりました。
(3)保護回路
保護回路は一般的なものです。 この程度の出力であって、スピーカーを鳴らすアンプの場合は省略してもよいのでしょうが、 ヘッドホンを鳴らすことが主
目的ですし、 電源のON-OFF時のノイズはヘッドホンを傷める可能性があるので ミューティングを兼ねて保護回路を付けています。 リレーがOFFに
なっている時或いはOFFになった時にLEDが点灯するようにしています。
(4)電源
電圧増幅段とドライバーの1段目には±20Vの電圧を供給します。 定電流ダイオードとツェナーダイオード、それにトランジスタ1個で構成した
無帰還タイプです。
出力段の電源は、主な用途はヘッドホンアンプですから電源電圧を±10Vとしました。 これでも8Ω負荷で約2W程度まで出力が出ます。 しかし、電源
電圧は低くても スピーカーを駆動する場合のピーク電流が1A程度まで必要になるので 制御トランジスタはダーリントン接続しています。 制御用に用いた
2SA1931/2SC4881は、1A程度の電流でもhfeが低下しにくいので使っています。 ダーリントンのドライブに使っている
2SA1048/2SC2458のエミッタには2.2kΩの抵抗を接続してアースに電流が流れるようにし、急激に電流が減少した場合でもカットオフしてし
まうのを防いでいます。
また、スピーカー端子をショートしたときのために、電流制限回路も付けました。 電流検出用の抵抗は、アンプ側に入れると電源インピーダンスを上昇させ
ますので、整流回路側に入れました。
2.製作
(1)組み立て
ユニバーサル基板を使って組み立てましたが、サイズが小さかったためにかなり窮屈になってしまいました。 注意点としては、バイアス調整用のトランジス
タと出力段のトランジスタの熱結合は絶対に必要です。 ここでは、出力段の中央の石とエポキシ接着剤でくっつけています。 これを忘れると、出力段に電流
が流れすぎて出力段のトランジスタを壊してしまいます。 ケースは、とりあえずA4サイズのプラスチック製道具箱を使いましたが、予想外にアンプと定電圧
電源の発熱があるので、金属製ケースに変更する予定です。
アース配線の概要を以下に示します。 ヘッドホンアンプの場合は、ヘッドホンジャックの所で必ず左右のアースが共通になります。このため、本機では左右
独立電源であるものの入力部分から左右共通のアースとしています。 これは、左右独立のアースとするとヘッドホンジャックのアースと本機の前に繋がる装置
の左右共通のアース(殆どの装置はそうだと思うが)出力端子との間に大きなループができて、ハム発生の原因になるためです。
また出力端子のアースは、アースに流れる電流の影響を軽減するため出力段用定電圧電源の整流回路側から供給しています。
アースの配線概要
入力部周辺
アンプ部(手前)と定電圧電源部(奥)
出力段用定電圧電源部分
整流回路と、保護回路基板
トランス。右が出力段用。左の4個が電圧増幅段用。もちろん左右独立電源
A4プラスチックケースに収めた状態
(2)調整
組み立てが終了したら、スライドトランスを接続し、各部の電圧を測定しながら徐々に電圧を上げて行きます。 ここで、お寺大会に間に合わせようと急いだ
ためか、ハンダ付けミス2箇所と、ドライバ段の2SB733/2SD773及び2SA970/2SC2240を逆に入れていた間違いを見つけましたので、
修正しました。
一応動作することが確認できたら、初段の定電流回路の電流を4mAに調整します(初段の2SK389のドレイン抵抗にかかる電圧が2Vになるように調整
する)。
そして、出力電圧が0V付近になるように2SC3381に接続している半固定抵抗と、DCサーボの半固定抵抗を調整します。 最後に、出力段のバイアス
電流を50mA(個々のトランジスタに10mA)に調整します。 この調整を何度か繰り返し、30分間程度経過後に最終調整します。
3.測定結果、音
(1)測定結果
仕上がりゲインは9.8倍、出力インピーダンスはON-OFF法で0.4Ω(1kHz 1V出力及び2V出力)でした。
8Ω負荷で1V出力時の周波数特性を示しますが、400kHz程度まで伸びています。
歪み率を測ってみました。発振器:OCR11、FFTソフト:WaveSpecra(サンプルデータ数65536、窓関数ブラックマン-ハリス、レベル
-10dB程度)、サウンドユニット:Korg U1の組合わせです。 30Ω負荷は、ヘッドホンを鳴らすことを想定したものです。
電圧出力は、5.8Vでクリップします。このときの電力出力は8Ω負荷で約4.2W、30Ω負荷で約1.1Wです。 歪率は、8Ω負荷の場合 NO-
NFBアンプらしくなくクリッピングポイント直前まであまり上昇しません。 電圧増幅2段目の歪み打ち消しが効いているのかもしれません。 30Ω負荷の
場合は、THDが出力の上昇と共に徐々に上がっていきますが、やはりクリッピングポイント付近まで比較的低めの値です。
(2)音
スピーカを鳴らすことができるだけの出力はありますが、ヘッドホン(audio-technica
ATH-A9X)を直接つないでも雑音は気になりません。 まずは、一安心です。
次に、Korg
U1と本機をヘッドホンで聞き比べをしてみましたが、音が全く違います。 本機は、低音がクリアでよく伸びているし、細かい音まではっきり聞こえるし、音
量を上げてもうるさくなりません。 F1と普通乗用車でスピード競争をしているような違いがあります。 なぜ、このアンプを早く作らなかったのか後悔しま
した。
最後に、以前作ったNO-NFB 15Wアンプとスピーカを鳴らして比較してみました。 同じNO-NFBアンプなので、音の傾向は同じですが、本機は
少しおとなしい音です。 これが、トランジスタとMOS-FETの違いによるものなのか、今後の検討してみるつもりです。
4.Chu Moyヘッドホンアンプもどきとの比較
(1)Chu Moyヘッドホンアンプもどきの組み立て
ヘッドホンアンプとしては、Chu
Moy氏のものが有名のようです。 今回作ったアンプと比較するために、Chu
Moy氏のアンプと同じものを作ってみたかったのですが、OPA132、OPA134などを売っている店が少ないようだし、 比較試聴のためにわざわざ高
い買い物をするのもばからしいのでやめました。
となると、オーディ用で入手の容易なOPアンプを使うことになりますが、安価で、すぐに手に入るもので、FET入力で、オーディオ用のOPアンプはとな
ると 思いつくものがありません。 このため、トランジスタインプットでオーディオ用のOPアンプ NJM2114 を使ったChu
Moyヘッドホンアンプもどきを製作し、比較試聴してみました。 Chu Moy氏のアンプの製作記事は多いし(例えば中村さんのサイトなど)、簡単な構成なので組
み立てるのは簡単です。
製作したアンプの回路図は、下記(a)のものです。NJM2114は秋月で買いました。 入力抵抗は、手元にあった抵抗(100kΩ、10kΩ、
4.7kΩ、2.4kΩ、1kΩ)を入れ換えてテストしたら、2.4kΩと1kΩで出力側のドリフトが大体同じになったのでこの値にしています。
2.7k~2kΩであれば大丈夫でしょう。 この状態で、入力側に数mVの電圧が発生していますが、この程度であれば直流をカットするコンデンサはなくて
もなんとかなります。 もし気になるのであれば、(b)のようにコンデンサを入れるとよいでしょう。
組み立てた(???)状態
アンプ部
組み立てて、バラック状態のまま聞いてみました。 入力をショートするとノイズはほとんど聞こえませんが、NO-NFBヘッドホンアンプに較べると少し
ノイズが多いようです。 入力側のボリュームをちょっと上げると、ノイズが乗ってきます。 あまり気になるレベルではないので、 今回はノイズ対策をせず
に聞いてみました。
(2)比較試聴
このアンプは評判になるだけあって、十分いける音です。 音出しをしたときから、予想外 (失礼)
にいい音が出ていて、ひょっとしたらNO-NFBヘッドホンアンプといい勝負かな?? と焦りました。
Korg U1内蔵のヘッドホンアンプに較べたら遙かにいい音です。 比較してみると、
NO-NFBヘッドホンアンプ > Chu Moyもどきアンプ >> Korg U1
といった感じでしょうか。
NO-NFBヘッドホンアンプと較べると、 低音の伸び、分解能、奥行き感に違いが出てくるものの、 コストパフォーマンス(作る手間と費用、それと音
質とのバランス)を考えたら、Chu Moyアンプに軍配を挙げる人が多いと思います。 なにより、電池1個で動作するのがいいですね。
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