2SJ618/2SK3497上下対称半導体無帰還アンプ(2006年4月製作)
実は、3月に上下対称回路のアンプの1作目を作ったのですが、特性などのデータを取らないでいるうちに友人宅に貸し出ししてしまったので、上下対称回路
の2作目から公
開することにします。
2006年2月11日(土)に和泉橋区民会館(秋葉原)で「手作りアンプの会」で基
板製作会を開催しましたが、この時の回路は実績のあるものとし、無線と実験
1979年10月号に載せて頂いたアンプにDCサーボを加えたような構成にしました。この回路は、簡単な構成でありながら、電源変動などの外乱に強く、か
つドリフトが小さく、DCサーボなしでも実用になるものです。
これまで違う回路は考えていたのですが、簡単な回路で外乱に強くかつドリフトが小さいものとなるとなかなか思いつきませんでした。しかし、2月の製作会
に向けて基板設計などをしているうちに、2種類ほどアイディアが出てきて3月と4月に1台ずつ作ってみました。
ここでは、4月に作った2台目のアンプを紹介します。
1.設計及び回路図
2.プリント基板の設計
(1)パターン面
(2)部品面
3.パーツリスト(工事中)
4.アース配線など
5.組立
6.特性及び音
エッチングパターンのpdfファイル
1.設計及び回路図
基板製作会などで使ってきた回路は直流的に対称動作していますが、音声信号を増幅する場合、電圧増幅段2段目のバイアス回路に流れる電流が
変動することが気になっていました。これを解決するためには、上下対称回路を採用する方法が簡単です。
しかし、上下対称回路の場合、電源電圧変動などの外乱を抑え、ドリフトを小さくでき、かつ 簡単な回路構成というものがなかなか思いつきませんでした。
上側と下側に定電流源を独立して設ける方法は、簡単ではあるものの、定電流源の電流の差が出力に現れてしまいます。
色々考えているうちに、dualトランジスタを使ったカレントミラーならば、温度の影響を受け難いのではないかと思いつき、下のような回路を考えてみま
した。
初段は2SJ109/2SK389で、電圧増幅段の2段目は2SA1349/2SC3381です。電圧増幅段の電源電圧を±50Vとしたので、耐圧と熱
負荷を分散するため、カスコード接続にしてあります。ドライバ段は特性の素直な2SJ313/2SK2013を使い、出力段は特性が公開されていないもの
の高耐圧の2SJ618/2SK3497ってみました。完成後に特性を測ってみると、2SJ618/2SK3497は2SJ554/2SK2955並みの
順方向伝達アドミッタンスがあり、しかも高耐圧であることから使いやすい石であることが分かりました。
無帰還アンプの動作の要となる初段の定電流回路は、2SK246BLを使い2mA程度の電流を流します。これを2SA1349/2SC3381のカレン
トミラーで初段の電流を決めます。このようにすると、定電流源である2SK246の電流が変動しても上下対称の電圧が電圧増幅段2段目に加わるため、出力
に直流電圧が出にくくなります。また、Dualトランジスタ2SA1349/2SC3381を使っていることと、カレントミラーのエミッタ抵抗を大きな値
にしているため、トランジスタ間の温度差が発生し難く、ドリフトを抑制できます。
実際に、今まで作った無帰還アンプの中では一番ドリフトの小さなアンプに仕上がっています。
25W級のアンプ用にするならば、下図のように電圧増幅段の電圧を下げてカスコード接続を省略できます。
個人用のアンプでも、スピーカー保護のための保護回路は必要だと思われますので、保護回路を付けます。24Vのリレーを使いますので、出力段の電源トラ
ンスを活用して下図のような回路にしました。
DCサーボは、若干時定数を大きくし、音声領域への影響を軽減することを考えてみました。一般的に試用されているDCサーボと異なり、OPアンプの特性
に依存する部分を小さくしています。このため、DCサーボの有り無しによる音の違いは小さくなっています。
「手作りアンプの会」三土会などで聞き較べてもらった結果では、DCサーボ有りの方が若干おとなしい音になります。これは、配線パターンや、電源ライン
からの飛びつきで高域側に若干の帰還がかかっているためのようです。
いずれにしても、一般的なDCサーボに較べると音の差は小さいようです。
電源ですが、電圧増幅段は無帰還型の定電圧電源を使います。電圧調整は、ツェナーダイオードの選別で行います。出力段の電源ですが、以前定電圧電源を試
してみた結果では若干音が詰まった感じになったので、安定化せずに供給します。
また、今回使用したケースはサイズが小さいので、大きな放熱器は付けられません。このため、intel純正の486CPU用のヒートシンクを利用しまし
た。ファンの電圧は12Vですが、静音化のため抵抗で電圧を落とし、8.5Vくらいの電圧を供給しています。
2.プリント基板の設計
感光基板を使うと部品の配置をある程度自由にできるので、100×150mmサイズの感光基板(サンハヤト12K(紙フェノール)、33K(ガラスエポ
キシ))を使うことを前提に配置してみました。外部との接続は、ピンヘッダなどを使うと、部品面から配
線ができます。また、電圧増幅段の電源は、コネクタを使うとメンテが楽になります。
(1)パターン面
部品とパターンを重ねた図を示します。エッチングパターンはpdfファイルにしてあります。OHPシートに印刷し、2枚重ねで露光するように作ってあり
ます。参考にしてください。
エッチングパターン(pdfファイル)
(2)部品面
部品面側の配置図です。
25W級のアンプとする場合の部品面は、下図のようになります。
使用する主なFET、トランジスタの外形です。
3.パーツリスト
工事中
4.アース配線など
電源・アース配線の例を示します。この例が絶対ということではなく、電流の流れをよく考えて納得できる配線にしてもらえればいいと思います。要は、電流
を流すアースと電位を決めるアースをしっかり分けることです。
アンプ単独ではノイズが出なくても、前に繋がるアンプによっては微弱なハムが出ることがあります(アー
スのループができていないことを確認する必要はありますが)。高能率のスピーカーの近くにいると気になる
程度のハムです。これは、アンプ間で 電源ラインと電源トランスを通した干渉が起こり、アースに電源の交
流が流れているためと考えられます。このような場合は、信号がアンプに入ってきた早い段階でアースの電位
を安定化する必要があります。ケースバイケースになるとは思いますが、下記のような配線方法も効果があっ
たりします。
5.組立
部品は汎用品を使っています。抵抗は主に秋月の1円抵抗ですが、使う場所によっては熱容量の大きなものを適宜使い分けています。コンデンサは、小型のも
のを使います。フィルムコンデンサは積層型を多用しました。DCサーボ周りは電圧がほとんどかからないのですが、容量が大きい必要があるので積層セラミッ
クコンデンサを使っています。
リレーは、安く手に入れたOMRON
G4W-2212P-US-TV5を使いましたが、電流が流せるパワーリレーで24V品であればどれでも使えます。
アンプのケースは、YAMAHA
M-35のジャンクを流用しました。このケースに収まるように、パワートランスは、東栄変成器株式会社のJ-181Wを使いました。電圧増幅段用のトラン
スは、手元にあった24V35mAのものを8個使っています。ファンの電源は、東栄変成器株式会社のトランスJ0903を使い整流して供給しました。
放熱器は小型化のためintel486用ヒートシンク純正品を加工したものを使用し、強制空冷しています。しかし、風を上側の通風口から抜けるように厚
紙を切って加工したものを入れました。こうしないと、ケース内部に熱がこもりやすくなります。
ケースの外観は、下のようになります。強制空冷のおかげで小型にすることができ、取り扱いが楽になっています。
6.特性及び音
8Ωのダミー抵抗を接続し、測定してみました。出力インピーダンスは、On-Off法で測定しています。これは、終段のアイドリング電流に依存します。
ここでは、250mAの時の値です。
|
|
右ch
|
左ch
|
最大出力(8Ω負荷;クリッピングポイント)
|
W
|
25
|
24.5
|
ゲイン
|
倍
|
32.3
|
31.3
|
出力インピーダンス
|
Ω
|
0.31
|
0.39
|
出力電圧2.8Vのときの周波数特性です。-3dBポイントは約200kHzです。
歪み率ですが、WaveSpectraで測定しました。
歪み率(8Ωダミー抵抗負荷)
発振器:OCR11、FFTソフト:WaveSpecra(サンプルデータ数65536、窓関数ブラックマン-ハリス、レベル-17dB程度)、サウンド
ユニット:SE-U55GX
ケースアースしない状態で測定したためノイズの影響が出てしまい、左右で違ってしまいました。この状態で1W出力時に0.1~0.3%になりました。
ケースアースを取れば、約0.1%程度になるものと思われます。
「手作りアンプの会」の基
板製作会で使った回路とは回路がかなり違っているし、使っている石もかなり違うのですが、音はほぼ同一でした。音の出方や雰囲気は若干違っている
ので違いは感じるのですが、半導体無帰還アンプの特徴がそのまま出ているようです。
実は3月に作ったアンプも、音はほぼ同一であったので、半導体無帰還アンプの音の傾向は回路や素子の影響を受け難いのかもしれません。
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