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センサレスハンダごて温度コントローラの製作 その4
(2014年4月12日)
その1はこちら(2SK2186を使い最初に製作したもの)
その2はこちら(2SK2186をパラにして大電流化)
その3はこちら(2SK2372に変更し電圧検出用抵抗を交換可能にして汎用化)

 前回(センサレスハンダごて温度コントローラの製作 その3)は、なるべく多くのセラミックヒーターハンダごてに対応できるように電圧検出用の抵抗を交換できるようにしました。しかし、いくつか気になっている点が残っていました。
  1. 電源を入れた時に、平滑コンデンサの充電とハンダごてのヒーターに同時に電流が流れる。特に、PX-60Hなどのように室温での抵抗が低い(35Ω程度しかない)ヒーターを使った場合は、電源投入時に4A近い電流が流れるので電源スイッチへの負担が大きい。
  2. 精度良く温度コントロールするには、コンパレータのゲインが不足気味である。
   1番についてはヒーターに電流が流れる時間を少し遅らせ、スイッチの接触が安定してから電流を流すようにします。

   2番については色々考えてみたのですが、MOS-FET 2SK2372がOFFになった時に7.5kΩ或いは9.1kΩ2本直列の抵抗から供給される電流だけではヒーターの抵抗を精度良く検出できないという結論に達しました。コンパレータLM339内部のNo.4が、VR1+VR2とR3の電圧を比較してMOS-FET 2SK2372をON-OFFしていますが、OFFからONにする場合にコンパレータの出力を5V上昇させる必要があるとします。そうするとコンパレータの利得が100dB程度ですから約0.05mVの入力電圧差が必要になります。前回用いた回路の場合、電圧検出用の抵抗が0.82Ω、使用中の温度まで高まっている時のヒーターの抵抗が約100Ωなので、計算してみると、ヒーターの抵抗値が約7Ω変化する必要があります。ヒーターの温度係数を4400ppm/℃とすると約17℃の温度変化が必要になります。コンパレータの出力電圧を10V変化させなければなっらないとすると入力差が0.1mV必要になりますが、その場合は温度変化が約34℃ということになります。
   実際に動作させているときの温度の幅がどのくらいあるか見当がつかないのですが、ヒーター自身の温度はかなり上下していると思われます。これだと、ハンダ付け作業などでこて先の温度が下がった時の応答も遅くなっている可能性があります。
   これを改善するには、コンパレータの利得を上げる方法があります。しかし、コンパレータの利得を上げようとしても有効な手段が無いばかりでなく、仮に利得を上げることができたとしてもノイズとの戦いになることは明らかです。
   そこで一番確実な方法として、2SK2372がOFFになったときに、別電源から10V程度の電圧を供給することにしました。こうすれば、コンパレータの入力差が0.1mVのとき、ヒータの抵抗変化が約0.12Ω、温度変化で約0.3℃となります。入力差を1mVにした場合でも、ヒータの抵抗変化が約1.2Ω、温度変化で約3℃となり温度制御の精度が向上します。

内容
1.温度コントローラその4
(回路の検討)
(製作)
(調整)
2.オシロスコープによる動作確認
(組み立て直後の状態)
(感度を鈍くした状態)
3.まとめ

1.温度コントローラその4
(回路の検討)
   今までと同様に基本的な回路は、Toshi工房さんの「半田ごて用温度コントローラ」と同じです。違うところで大きなものは、MOS-FET 2SK2372のゲート電圧を作るためにトランスを用いた電源を別に用意していることと、今回から2SK2372がOFFになった時に電圧検出用回路にもトランスを用いた別電源を追加している点です。

回路図



   2SK2372のゲート電圧を作る電源を追加したことで、2SK2372のON抵抗が非常に小さくなり、放熱器を付けなくてもちょっと温まる程度の発熱で済みます。また、電圧検出用の電源を追加したことにより、セラミックヒータの温度制御の精度が向上します。
   回路図を以下に示します。前作から電圧検出用の抵抗R3を取り替え可能にしましたので、コネクタが接触不良を起こしたときにコンパレータLM339の入力に100V以上の電圧が掛かる可能性があります。このためLM339に高い電圧が加わった場合は、その電圧を検出してMOS-FET 2SK2372の電流を遮断する回路を追加しています。回路図で100kΩと3.9kΩで、3.9kΩに発生する電圧はVR1とVR2で発生する電圧範囲よりもかなり高めの電圧になります。R3のコネクタに接触不良などが発生して3.9kΩに発生する電圧よりも高い電圧が生じた時は、下側のコンパレータの出力が電流を吸い込み、フォトカプラのトランジスタ側が電流を流してMOS-FET 2SK2372のゲート電圧を下げ、電流を遮断するようにしました。また、瞬間的にでもLM339の入力に高い電圧が掛からないように1kΩと12V-1Wのツェナーダイオードを入れました。
   あと、電源をON-OFF-ONのように操作したときに、タイミングによってはコンパレータの電源電圧よりも入力側にかなり高い電圧が加わる可能性があります。そこで、電源電圧よりも高い電圧が入力に入ってきた場合は電源側に逃すように1N4148を入れ保護しています。

   また、今回は電源スイッチをONにしてから2SK2372がONになるまで1秒程度になるようにしてみました。コンパレータとフォトカプラに流す電源に1N4148を一本追加し、1.2Vから10kΩの抵抗を通して100μFのコンデンサを充電し、0.6V付近を越えるまでに約一秒になるようにしました。このクロスする電圧をLM339内部のNo.2のコンパレータで比較し、約一秒後に2SK2372をONにするようにしています。また、電源ON時に2SK2372のバイアス電圧を作っているトランスと整流回路による電源電圧が早く立ち上げってしまうと、コンパレータによる2SK2372をOFFにする電流が間に合わず、先に2SK2372がONになり、その後コンパレータの制御が効くようになることでOFFになる可能性があります。そこで2SK2372のバイアス電圧を作る電源回路の清流ダイオードの前に270Ωを直列に入れ、更に平滑コンデンサも1000μFにして、この電源電圧の立上がりを遅らせてみました。
   この対策により、電源スイッチの接点が安定してからハンダごてのヒーターに電流が流れるようになり、電源スィッチの寿命が延びると思います。
   LM339はオープンコレクタなので、内部のNo.2~No.4の出力を並列接続しています。

   その他に今回採用したものは、MOS-FET 2SK2372のバイアス回路に2SK30Yを使った定電流回路を入れたことです。これは、ツィナーダイオードに流れる電流の立ち上がり、電流カットをなるべくシャープにしようと思ったためです。定電流ダイオードのE-301を使えば回路を簡単にできたのですが、手元になかったのでこの構成にしています。逆に電流を調整できるので、フォトカプラの変換効率が低い場合でも調整により対応できるという長所があります。2SK30YはIDSSが2mAくらいものまで使えると思います。これ以上のIDSSになると、半固定抵抗を10kΩにする必要があります。
   コンパレータとフォトカプラを動作させる電源は、9.1kΩ二本の抵抗と12Vのツェナーダイオード、それに1N1418のダイオードで作ります。今回は電源がONになったとき、なるべく早くコンパレータの電源を立ち上げる必要があるので、パスコンは0.1μFを二箇所に入れるただけにしています。
   MOS-FETは秋月で安く購入できた2SK2372を使用しました。耐圧が高くON抵抗も小さいので便利に使えます。しかし、秋月にはもう在庫がないようなので、代わりに買うとすれば2SK3628か2SK447になります。
   MOS-FET 2SK2372をバイパスしてハンダごてに電流を流す2本の直列接続した9.1kΩは、トランス電源を入れたので本来は不要なのですが、コネクタが接触不良でトランス電源からの電圧が来ない時にでもある程度は動作するように残しておきました。
   9.1kΩの抵抗は2W以上、100kΩは1Wのものを使います。LM339の入力に入れている1kΩの抵抗は、1Wのものを使います。
   AC100Vを整流した後の平滑コンデンサは、820μFを使いました。この位の容量になると、電源スイッチにAC250V 6Aクラスのものを使わないと接点が溶着或いは接触不良を起こしやすくなります。もし、小型のスイッチを電源スイッチとして使うのであれば、平滑コンデンサの容量を200μFくらいにした方がいいです。    ヒーターに通電していることを示す青色LEDは、秋月で売っているUB3804Xを使いました。高輝度タイプでないと、赤色LEDと光量のバランスが取れないです。
   フォトカプラはTLP621-1を使いました。これは、秋月で安く購入できるということで使っています。他のフォトカプラでも使えるはずです。
   温度調節用の半固定ボリュームVR2は1kΩを使っています。ツマミ付きのボリュームVR1は、マルツで売っているLinkmanのRD925G-QA1-B102 2連式ボリューム B特性 1kΩを使いました。これをパラにして、500ΩB特性のボリュームとしています。これに流れる電流は1.5mA程度なので、他の小さなボリュームでも構わないはずです。
    LM339の入力に入れている100μF、10μF、2.2μFのコンデンサは、バイポーラケミコンを使っています。100μFは、MOS-FET 2SK2372がOFFのときの別電源を用意した結果、感度が上がり過ぎてヒータのON-OFFの間隔が短くなりすぎたため、感度を鈍くするために入れています。また、コンパレータの出力に入れている0.01μFは、ノイズを減らすために入れました。コンパレータの入力電圧差があまりない時に出力にノイズが出やくすなっているようで、そのノイズを減らすためです。

(製作)
   プリント基板は、今までと同様にユニバーサルにしました。回路が複雑になってきた関係で少し窮屈になっています。図中の線と線の交点が基板の穴と考えて下さい。図中の太い線は、3A位の電流が流れます。なるべく太い線で配線する必要があります。AC入力、とハンダごてへの出力、それに電圧検出用の抵抗は、秋月で売っているプリント基板用のターミナルを使いました。電源スイッチは、250V5A以上の大型のものを使用した方がいいです。電源ON時の負荷を低減する回路を入れてはいますが、平滑コンデンサの 容量が大きいので、ある程度容量の大きなタイプでないと故障する可能性が高いです。
   トランスですが、18Vのものは殆ど電流が流れませんので0.1Aの容量で十分です。9VのものはヒータにPX-60Hを使用した場合は最大で0.3Aくらいの電流が流れることがあるので、0.5A程度の容量のものを使って下さい。

部品面側からのパターンです。


基板を作り終わった状態の写真です。



裏側の状態


例によって、CDケースに納めました。



 

 


(調整)
   まず、配線ミスがないかよく確認します。電圧検出用の抵抗R3は、室温におけるセラミックヒーターの抵抗の1/50~1/40くらいにします。ほどんど発熱はしませんが、3Wくらいのセメント抵抗にしておいた方が無難だと思います。これを取り付けます。その後、半固定抵抗VR2の抵抗値を500~600Ωにしておきます。
   電源をスライダックに繋ぎ、とハンダごてを接続して徐々に電圧を上げ、電圧を確認します。うまく動作しない場合は、配線ミスがないかよく確認して下さい。問題がないことを確認できたら、こて先温度計を使い、ボリュームがセンター位置でこて先温度が320℃になるように半固定抵抗VR2を調節します。続いて、こて先温度を測定しながら300℃、320℃、350℃の位置に印を付ます。
   こて先温度計は、共立電子産業で売っているハンダゴテ温度計キット(HAN-ON製) が安価でいいと思います。

2.オシロスコープによる動作確認
   今回は、MOS-FET 2SK2372からヒーターに電圧が供給されないときに別電源を用意しました。しかし、感度が上がり過ぎたのか点滅の間隔が極端に短くなってしまいました。その原因を探るためにオシロスコープで波形を観察してみました。
   但し、温度コントローラは電源を直接 整流していますので、オシロスコープの動作に悪影響を及ぼしたり、波形観察ができない可能性があります。そこで、温度コントローラと電源の間に絶縁トランスを入れました。
   また、一定間隔でON-OFFしている訳ではないので、波形を捉えるのが難しいです。このため、綺麗な波形になっていません。

(組み立て直後の状態)
   LM339の内部No.4の入力に10μFを入れ、コンパレータの出力の0.01μFがない状態で波形を観察してみると、コンパレータの出力にノイズが乗っています。このノイズは、MOS-FET 2SK2372がONになる直前に急に大きくなり、下の写真のような状態になります。コンパレータの入力電圧の差が小さくなって入力側のノイズを拾っているようです。2SK2372のバイアス電圧を作るツェナーダイオードの電圧波形に影響はしていなようですが、動作が不安定になっている可能性があり、気になります。2SK2372のON-OFFは尾を引くことなく綺麗です。

コンパレータ出力 2ms/div,5V/div



MOS-FETのバイアス用ツェナーダイオード両端 0.5ms/div,5V/div


青色LED点燈回路のアース側9.1kΩの電圧 0.5ms/div,20V/div
(MOS-FETの出力電圧波形を直接見ることに抵抗があったので、電圧の低いポイントにプローブを入れました。)

(感度を鈍くした状態)
   感度を鈍くしてMOS-FET 2SK2372のON-OFF間隔を長くするため、LM339内部のNo.4入力に入っているコンデンサの容量を100μFにしました。また、コンパレータの出力に0.01μFを入れ、ノイズを減らしてみました。これを0.1μFにすると更にノイズは減りますが、立ち下がりが鈍くなるのとコンパレータの負荷が大きくなりすぎる心配があるため、0.01μFにしています。ヒステリシスを持たせることも考えたのですが、入力の電圧差が小さいところで使用しているのでうまく動作しないだろうと思い採用しませんでした。
   入力に入れているコンデンサを100μFにしたことで、2SK2372のON-OFFの間隔が長くなり、動作が安定したようです。オシロスコープの時間軸が10ms/divになっているのは、間隔が長くなったためにこれくらいにしないと写真が撮れないからです。
   2SK2372のバイアス電圧を作っているツェナー電圧の波形は、上の写真と同じ条件で撮影できななったので直接比較できませんが、立ち上がり、立ち下がりとも問題はないようです。

コンパレータ出力 10ms/div,5V/div


MOS-FETのバイアス用ツェナーダイオード両端 10ms/div,2V/div


3.まとめ
   センサレスはんだごての温度コントローラをいくつか作ってきましたが、やっと完成形に持ち込めたかなと思います。初代のコントローラでもそれなりに実用にはなるのですが、精度の高いほうが安心します。
   はんだごての温度コントローラを使い始めたときはそれほど有効な装置ではないような印象でしたが、使い慣れてみると、温度コントローラが無い状態でハンダ付けすることが難しいと感じるようになりました。特に、表面実装部品を処理する場合、温調はんだごてはかなり有効だと思います。



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