長岡式D-112(改)スパイラルホーンの製作
(2007年12月)
きっかけ
「手作りアンプの会」2007年冬のお寺大会の課題は「1インチスピーカーで遊ぼう!」でした。今回は、松下EAS-3P133B6を使うことになりましたが、特性を見ても、実際に裸で鳴らしてみても低音を出すのは容易ではなさそうです。
低音を豊かにするには、コーン紙を重くして高音を抑える、ホーン等を利用して低音を増強するなどの方法が思い浮かびますが、マグネットが非力なので、コーン紙を重くしてもパワーが入りそうもありません。そこで、バックロードホーンで行くことにします。
しかしながら、今、20cmのバックロードホーン(D-50改)を使っていますので、小型の普通のバックロードホーンを作るのは面白くありません。そこで、以前から興味があったスパイラルホーンを作ってみることにしました。
ホーンの選択
松下EAS-3P133B6の振動板直径は約20mmです。4個パラにしても振動板面積は約12.5cm2しかありません。しかも、裏側を見るとボイスコイルが大きく裏側で放射される音は、エッジ部分からのものが大部分になりそうです。仮に振動板面積が全部利用できたとしても、スロート絞り率を0.5~0.9にしようとすると、スロート断面積を6~11cm2程度とかなり小さくする必要がありそうです。
しかし、1インチスピーカーのためだけに箱を作るのはあまりに無駄が多すぎます。そこで、10~12cmのユニットが使えるようにスロート断面積を25~45cm2程度にすることにします。
次にホーン長ですが、インターネットの情報、「長岡鉄男のオリジナルスピーカー設計術⑤」の試聴記事、D-50バックロードホーンを使っている感じなどからある程度十分な低音を再生するためには3mくらいの長さが必要と思われます。
これらの条件に合うようなスパイラルホーンを設計するのはそれほど難しくはないのですが、色々調べてみると、長岡さんのD-112(アンモナイトL)あたりに落ち着いてしまいそうです。そこで、D-112をベースにユニットを交換できるような構造のものを作ることにしました。但し、D-50を改造した経験から力のある音を出すには空気室を小さくすること、中高音の漏れを抑えるために開口部の前のホーンあたりに吸音材を貼る必要がありそうです。吸音材がないとエコー感が強くなって、落ち着いた音楽には向かない音になってしまいます。
材料の調達
15mmのラワン材を入手できて裁断をしっかりやってくれる店は、日立市近辺だとジョイフル本田ひたちなか店あたりになります。裁断図面は以下のようになりますが、オリジナルと違うところは、18番、19番の板です。18番は空気室の入り口にユニットを交換できるように取り付ける枠の板です。19番は120mm角の板にして、ユニットを交換できるようにするための取付板です。最初から120mm角に切ってしまうと穴開けが難しくなりそうなので120mm幅の板に切ってもらいました。
木ねじ、釘(40mm位、15mm位の2種類)、ボンド、ペンキなども一緒に買い込みます。
寸法書きと穴開け
D-112は左右対称に作ります。このため、間違えないように板に番号を記入し、手前の板、後ろ側の板の区別をしておきます。さらに、板の両面に下図のようになるべく正確に板の接合位置を記入しておきます。これをやっておかないと、間違う可能性が高くなります。
これが終わったら、5番から17番の板にドリルで木ねじ用の穴を開けます。合板などの場合意外と簡単に表面と内層の板が剥離するので、木ねじで締め付けることにしています。木ねじを締め込む側には、ザグリを入れて少し凹ませておきます。こうしないと、反対側の板からの盛り上がりが邪魔をして、板と板の密着性が悪くなります。1番から4番は釘で接合しますので、とりあえずはそのままです。
スピーカーを取る付けるための枠は、18番の板を下図のように切って使います。この板には、円となるように取り線を書き込んでおきます。これは、FF125Kなどの12cmユニットを付けるとき、マグネットがぶつからないようにジグソーで切り取るために必要です。
組み立て
私の場合ですが、まず1番~4番の板をボンドと釘で組み立てます。1番から15番までの板は、裏板と表板で挟んで木ねじで接合するので、木ねじがぶつからない位置にしておきます。
続いて、5番から10番の板を木ねじとボンドで組み立てます。ここまで組み立ててみると、板のずれは意外と小さくて、ほとんど修正する必要がないくらい綺麗に仕上がりました。
次に、これを裏板に取り付けます。7番から10番の板に小さな釘を通す穴を開けておきます。裏板の上に載せて、所定の位置になるように小釘で固定します。小さな釘でも意外と保持力はあって、スパイラルの形のずれを修正して固定できます。釘で固定したら、裏板から木ねじで固定します。小釘の周りはボンドを塗って空気の漏れを防いでおきます。
これにスピーカ取付けの枠を木ねじとボンドで取付けます。下図のようにジグソーで丸く切り取るので、木ねじの位置に注意します。
ある程度ボンドが乾いたら、スピーカー取付け枠をジグソーで切り取ります。このとき、奥というか下側に広がるようにします。そうしないと、FF125Kなどのマグネットと枠板の隙間が狭くなって音圧が裏側に届き難くなってしまいます。
あとは順番に、板を組み立てて行きます。
全てを裏板に付け終わったら、凹凸がないか確認し、必要ならば鉋で出っぱりを修正します。
次に表板を付けますが、まずスピーカー端子を付けます。コードは音道を通して1番板のスロートから空気室に通しておきます。この状態で、ボンドを塗り、木ねじで接合します。
スピーカー端子は、表側に付けました。これは、スパイラルホーンの場合、背面の壁などに密着させて使うようにすると低音が豊になるとの記事があったためです。また、表側にあると接続が簡単になります。(見映えが悪いという意見は、この際無視)
組み立てが終わった状態です。
ユニットの取付け方法確認
今回使うユニットは、「お寺大会課題スピーカ」として松下EAS-3P133B6、通常はFOSTEXのFF125Kです。
前述したように、EAS-3P133B6は振動板面積が小さく、しかも背面側の面積がかなり小さいようです。そこで、表と裏、どちらをホーン側にするか決めるための実験をしてみました。
このユニットを5mm厚のベニヤ板(黒く塗ってあります)に接着し、それを保持する15mm厚の合板に表面と裏面の両方で音出してみました。
裏面を表にしたとき(左)は、表面を表にしたとき(右)に較べて低音が出るようになるもののエコーが強くなり、音は好みではありません。一方、表面を表にしたとき(普通の状態ですね)は若干低音が出なくなるものの、聞きやすい音です。バランスから考えて、後者の取付け方法で行くことにしました。
反射板の製作
お寺のような広い場所で使うとき、背面が壁というセッティングは難しくなります。また、こうなると低音が出難くなってしまいます。そこで、スパイラルホーンの出口に反射板を付けることにしました。板取の図面を作ったときはサブロク合板から作るつもりでいたのですが、近くのホームセンターに行ったらコンパネが安く売っていたのでそれを切ってもらいました。そのため、板取の寸法が違ってしましい、適当に作っています。
とにかく、スパイラルホーンの出口に45°の角度の板を付けて、低音が正面側に出るようにしています。
塗装
色は、書込が目立たないように黒にしました。
空気室の砂詰め
空気室はオリジナルだと2L以上ありますが、D-50バックロードホーンの経験から、空気室が大き過ぎると低音が出難くなるのと音に力がなくなる感じがあります。長岡さんの記事によると(「長岡鉄男のオリジナルスピーカー設計術⑤」)FOSTEXのFEシリーズのようなユニットは(FF系も同様と思われる)、空気室が小さくてもちゃんと鳴ってくれるようなので、ボンドで練った砂を詰めました。スロート部分に向かって傾斜をつけ、スピーカーユニットから出た音がスロートに届きやすいようにしてあります。
大量のボンドを使っているので、なかなか乾き難く、乾燥に時間がかかります。今回は時間がないので、ストーブの近くに置いて強制乾燥しました。
吸音材
ネットで調べてみると、スパイラルホーンは開口部からの中高音の漏れが多いとの記事がありました。D-50バックロードホーンの場合も中高音の漏れでエコー感を感じ、吸音材を使用しています。スパイラルホーンの場合も、開口部付近の吸音材は必要のようです。
試しに、吸音材なしでFF125Kを取り付け、鳴らしてみるとかなりエコー感があります。中高音の漏れはかなりあるようです。そこで、13番の板の最後の部分から14番の板、10番の出口側の板の半分、それに11番と15番の板とその上下間にニードルフェルトを半分の厚さに分けたものを貼り付けました。
その結果、エコー感はかなり抑えられ滑らかな音になりました。
ユニットの取付け
ユニットは、下図のように板に付けてからスパイラルホーンに取り付けます。木ねじを使うので、板が割れないように真鍮製のワッシャーを付けます。
FF125Kは、3.3μF+10Ωのインピーダンス補正をして、高音側の音の荒れを防ぎます。これで、若干ハイ落ち気味の音になるはずですが、パイオニアPT-R5に高域側を受け持たせる予定なので問題ありません。
ユニットを取り付けている板には、音の漏れを防ぐためにシールを貼り付けます。ここでは、3φのウレタンスポンジ紐をゴム系接着剤で貼り付けています。
インピーダンス特性
①EAS-3P133B6
EAS-3P133B6の2パラを直列(計4個)にしたときのインピーダンスが点線、これをD-112改に取り付けたときが実線です。スピーカー端子の電圧は100mV一定です。D-112改に取り付けたとき、若干ピークらしきものが増えたり、350Hz付近のピークが二つに分かれたりする違いはあるものの、ほどんどインピーダンスカーブに変化がありません。
予想通りの結果になりましたが、やはり振動板面積が小さすぎてホーンの効果は弱いようです。
②FF125K
FF125K単体(点線;3.3μF+10Ωのインピーダンス補正)と、FF125KをD-112改に取り付けたとき(実線)のインピーダンス特性を下図に示します。 さすがにFF125Kだとホーンの効果が出ていて、D-112改に取り付けるとピークがたくさん出てきました。通常のバックロードホーンに較べるとピークの高さが揃っていることと、数が多いような気がします。スパイラルホーンは、通常のバックロードホーンと挙動が違うようです。
高域側のインピーダンス補正は、3.3μF+10Ωでほぼ適正な値のようです。
出てきた音
塗装とボンドの乾燥に時間がかかり、ぶっつけ本番に近い状態で お寺大会の課題に参加しました。EAS-3P133B6を鳴らしてみると、意外と低音が出ています。ホーンを使っていないスピーカーだと振動板の振幅が大きくなるような状態でも、ホーンロードが効いているのか振幅が抑えられるようです。インピーダンス特性から見ると殆どホーンの効果はないようですが、振動板の面識が小さくてもそれなりにホーンの効果があるようです。
もう一つのFF125K+PT-R5の方はさすがにしっかりホーンの効果が出ていて、量感のある低音とリボンツィータの明瞭な高音で十分に使えるレベルの音になっていました。FF125Kのインピーダンス補正と、開口部の吸音材の貼り付けで、リボンツィータとの繋がりは自然です。
ネットで調べてみるとスパイラルホーンの場合は低音が不足しているような記事がありますが、今回のD-112(改)は空気室を小さくした効果が出ているのか、低音が物足りないということはありません。(さすがに、20cmユニットを使ったバックロードホーン(D-50改)に較べると、超低域は苦しいですが)
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