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バックロードホーンスピーカー
 長岡鉄男さんが数多く製作し、一部の熱烈なマニアの支持があることで有名なバックロードホーンですが、あまり見かけないスピーカーであることも事実で す。一番の理由は、メーカーが作らないからでしょう。凹凸の激しい周波数特性、スピーカーユニット1本だけの簡単なシステムであり高級なイメージを出しに くい、大きくて複雑で重たくて金のかかる箱、などなどで、メーカーが二の足を踏むのも無理からぬ事であります。

バックロードホーンスピーカーを使う理由

違いの分かる音が出る
 私がバックロードホーンスピーカーを使っている最も大きな理由は、使っているユニットが基本的にフルレンジスピーカーであるということです。基本的にと いうのは、高音側にスーパーツィーター(超高音用のスピーカー)をパラで接続しているためです。
 さて、フルレンジスピーカーだと、低音が出ない、高音領域では分割振動になる、超高音が出ない などなど、デメリットが強調されます。このため、音が荒 い、細かい音が出ないなどと思われがちです。
 しかし、低音の不足はバックロードホーンで補い、高音の部分はスーパーツィータ(超高音用のスピーカー)をパラに接続して高音の不足と音の荒さを是正し てやれば、フルレンジスピーカーの問題点はかなりの部分まで解決できます。

 確かに、2way、3wayのスピーカーで、よくできているものは細かい音まで聞こえますし、音が張り出しきます。しかし、ネットワーク回路を使ってい るためか、プレーヤの部品、フォノカートリッジ、ケーブルを変えたりしたときの変化が分かり難いのです。 ちょうど、厚化粧した美人のような感じで、細か い感情の変化が分かり難いことと通じる部分があるかもしれません。

 これに対して、フルレンジスピーカーを使ったときのメリットは、システムの違いなど、細かい違いがよく分かるということにあります。化粧していない素顔 の女性の細かい感情変化が分かるような感じです。 スピーカーユニットが良くないと いい音が出ませんが、スピーカーユニットに良いものを使えば いい音 が出ます (もともと美しい女性は、美しいということでしょうか?)。 アンプの比較、プレーヤーの比較、スピーカーコードの比較などをしてみると、ネッ トワーク回路を持たないフルレンジスピーカーの方が、違いがよく分かります。

 繊細という意味とは違うと思いますが、細かい違いを聞き分けることができるという意味で、基本的にフルレンジスピーカーであるバックロードホーンスピー カーを使っているのです。

能率が高い
 バックロードホーンに使うスピーカーユニット、 特に長岡鉄男さんが好んで使ったユニットは、最近の一般的なスピーカーに較べると、恐ろしく磁気回路が強力でQoの低いものです。このことは、軽い振動系 を強力な磁気回路で駆動していることであり、能率の高いスピーカーになります。
 例えば、FE-206Σだと出力音圧レベルが96.5dBでQo=0.26、FE-208Sだと出力音圧レベルが98dBでQo=0.16、FE- 208SSだと99dBでQo=0.15です。このようなスピーカーユニットは確かに能率は高いのですが、Qoが低すぎて密閉型とかバスレフ型の箱に取り 付けて鳴らしても全く低音が出ません。バックロードホーン型とか共鳴管型のスピーカでしか使えないという代物です。
FE-206  
現在使用中のFE-206Σ

 このようなスピーカーユニットをうまく鳴らすことができれば、ミニアンプでも十分鳴らすことができますし、同じ出力のアンプだったら大きな音で鳴らすこ とができます。最近の4Ω、86dBなどというスペックのスピーカーに比較すると、約40倍ほど能率が違いますので、2.5Wのミニアンプで、100Wの アンプと同じ音量にすることができます。

 音質的な理由からは少し離れますが、能率が高いということはそれなりにメリットがあります。さらに、舞の海が小錦に勝つような感じがあって、他の人に説 明する時の自慢にできます。 また、アンプを自作している人だと分かると思いますが、小出力のアンプの方が製作するのが容易ですし、繊細な音を出すという 意味では小出力アンプの方が有利です。

長岡式バックロードホーンスピーカーのパラメータ
 長岡鉄男さんのバックロードホーンについては、長岡鉄男さん自身が書かれた本が多数あるのでここで述べるまでもないのですが、意外と設計のパラメータに ついてはっきり書いている記事が少ないので、簡単に紹介しておきましょう。「長岡鉄男のオリジナル・スピーカー工作45 (昭和55年)」、「長岡鉄男の オリジナル・スピーカー設計術1 こんなスピーカー見たことがない(1996年)」、「FOSTEX CRAFT HAND BOOK VOL.1(1989年)」などに書いてある内容です。

スロート断面積
 長岡鉄男さんの経験式では、スロート絞り率を下式のようにしています。

SR=1/5Qo

SR : スロート絞り率
Qo : スピーカーユニットのQo

 従って、スピーカーユニットの実効振動半径をa cmとすると、スロート断面積Soは

So=πa^2/5Qo

a : 実効振動半径(cm)
となります。

 実際には、スロート絞り率が0.3~0.7となるように設計するようです。 これが、D-55では約0.8、D-58では約1.0となっています。

空気室容積
 空気室容積Va は、長岡鉄男さんの経験式から、ユニット前面から出る音と、ホーンから出る音の交差周波数fx を決めるパラメータになります。Vaと fxの関係は、下式のようになります。
Va=10*So/fx

So : スロート断面積
Va : 空気室容積(リットル)
fx : ユニット前面から出る音と、ホーンから出る音の交差周波数(Hz)

 また、Vaを下式の範囲に収めることも一つの方法と書かれています。
Va=0.07a^2 ~ 0.3a^2
ホーンの広がり
 このパラメータについて数字を書いてある記事は、私の手元にあるものだと、「長岡鉄男のオリジナル・スピーカー工作45」のdynaload9だけでし た。ホーンの形を決める一番重要なパラメータだと思うのですが、長岡鉄男さんの場合は、音に対する影響がそれほど大きくないと感じていたのかもしれませ ん。

 また、計算を10cm単位で直感的に理解しやすいようにと考えたためか、パラメータとしてKを用いています。一般的な広がり係数mとの関係を下式に示し ます。D-55、D-58などの FE-206、FE-208系の20cmフルレンジユニットを使ったものでは、詳しく調べていませんが、Kの値として 1.1が使われ、fcが25Hz程度で設計されているようです。fcが決まれば、下式のようにホーンの広がりが決まります。
Sx=So*e^(m*x)=So*K^(x/10)

Sx : スロートからx cm進んだ位置の断面積
So : スロートの断面積
m : 広がり係数
fc : カットオフ周波数  [fc=m*C/(4*π)  Cは音速(cm/s)]

カットオフ周波数fc(Hz)
20
24
25
28
30
35
m
0.007336
0.008803
0.009170
0.01027
0.01100
0.01284
K
1.076
1.092
1.096
1.108
1.116
1.137







カットオフ周波数fc(Hz)
40
50
60
72
85
100
m
0.01467
0.01834
0.02201
0.02641
0.03118
0.03668
K
1.158 1.201
1.246
1.302
1.366
1.443
(気温20℃の計算結果)

 他の例をインターネットの検索で調べてみると、mよりもKを用いて設計している例が目立ちます。長岡鉄男さんの影響が大きいことが分かります。 また、 Kの値はスピーカーユニットの口径と関係なく、1.05~1.1の範囲で使われている例が多いようです。

ホーンの長さ
 ホーンの長さは、最低共振周波数を決めるパラメータですが、カットオフ周波数と最低共振周波数を同じにしようとすると、例えばfc=25Hzでは7m近 くなってしまい、実用的ではありません。このため、D-55、D-58などでは、ホーン長さを2~3m程度としたショートカットホーンとなっています。

L=C/(2*fr)
L : ホーン長さ
fr : 最低共振周波数
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両端スロートバックロードホーンの製作
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